【専門家の知恵】「労働者代表」を適当に決めてはいけない理由

公開日:2023年5月12日

<社会保険労務士法人ステディ代表社員 瀧本 旭/PSR会員>

はじめに

 2019年4月以降、時間外労働の上限規制が※厳格化された。厳格化に伴い、時間外・休日労働に関する協定届(以後、36協定)をはじめとした各種労使協定について、労働者代表とより注意して締結する必要性がある。労使協定の成立要件である「労働者代表の選出方法」について、改めて解説したい。

※改正前は、「月45時間、年360時間」という「限度基準告示」を定め、行政指導を行っていた。しかし、臨時的な特別の事情がある場合は、特別条項を結べば実無制限に残業させることができた。これに対し、改正により、法律(労基法36条)に時間外労働の上限時間として「月45時間、年360時間」が明記された。

 

労働者代表とは

 労働基準法上、36協定、1年単位の変形労働時間制に関する協定等、労働者代表の意見や押印を求めるケースが多々ある。過半数の労働者で組織する労働組合がある場合は労働組合の委員長を代表とすることができるが、実際は労働組合がある企業の方が少なく、多くは「労働者の過半数を代表する者」を選出しているだろう。

 労働基準法上の※管理監督者は労働者代表となることはできない。管理監督者は労働者を監督する立場であり、労働者の意見を代表する者と相反するからである。
※労働基準法上の管理監督者は、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断されるため、「ある一定上の役職は管理監督者」などと、決められるものではない。

 

選出方法

 選出方法については、以下2つの要件がある。

・その者が労働者の過半数を代表して労使協定を締結することの適否について判断する機会が、当該事業場の労働者に与えられていること
 →会社側の判断のみをもって労働者代表を選任したり、特定の役職者を自動的に労働者代表にするといったことはできない。
・当該事業場の過半数の労働者がその候補者を支持していると認められる※民主的な手続きがとられていること
 →例えば、投票や挙手があげられる。

①投票による方法
社内選挙による選出方法。業務連絡等で事案を説明して立候補者を募る。立候補者が複数であれば候補者の社内投票による選挙を実施。立候補者が1人の場合は、その旨を説明し信任投票を実施。選出までの過程が明確で、代表者の選考方法として有効である。

②挙手による方法
挙手により選出。その際は社員全員が参加する社内会議などの場による。一部の労働者だけが参加する場での選出は無効となる可能性が高い。挙手により選出した過程を書面等で残す。

 逆に、会社側からの特定社員の指定、親睦会等の幹事をそのまま労働者代表とする、管理部門の社員をそのまま労働者代表とすることは控えるべきである。

 

労働者数

 労働者としてカウントされる従業員の範囲について、社員・パートタイマー・アルバイトに関わらず「労働契約に基づき労働力を提供している者すべて」を含む。したがって、管理監督の地位にある者や、時間外労働等が禁止されている年少者、時間外に制限がある育児・介護休業者、出張中の者、休職者、出向者等、在籍するすべての者が含まれる。

 例えば36協を例にすると、有効期間を1年間としているケースが多い。その間に従業員の増減があったとしても、36協定を締結した当時に要件を満たしていれば、その後に従業員が増減した結果、過半数の要件を満たさないことになったとしても、36協定の有効期間の途中で無効になることはない。
 また、新しく採用した従業員にも、その36協定を適用して、36協定の範囲内で時間外労働や休日労働を行わせることが可能である。

 

おわりに

 労働者代表について、経営者が恣意的に選出したり選出方法に問題があるとなった場合、その労使協定等自体が無効となるリスクがある。つまり、労使協定が存在していないことと同じであり、すなわち即労働基準法違反となってしまう可能性があり、企業にとっては常にリスクと隣り合わせの状態と言える。

 各種労使協定は協定の有無や内容はもちろん大事ではあるが、作成の過程も非常に重要である。企業側の一方的な押し付けではなく、労働者代表と真摯な話し合いの上で作成されるべきものである。
 働き方改革等、従業員の立場が見直される中、今後も新たな制度に関する労使協定を締結する機会は増加だろう。経営者にとっても従業員にとっても健全な企業組織を実現するために、重要性がますます高まっている従業員代表について十分理解し、適切な手続きで選出されることを、今一度見直されてはいかがだろうか。

 

プロフィール 

社会保険労務士法人ステディ 代表社員瀧本 旭https://steady-sr.com/

大学卒業後、トラック運転手や社会保険労務士事務所での勤務を経て、2013年10月社会保険労務士たきもと事務所を設立。2018年10月、社会保険労務士法人ステディとして法人 化。ビジョンに、社員の満足度向上あってこそ顧客にベストなサービスを提供できるとの考えから、「働き方満足度日本一の事務所」を掲げている。

 

 

 

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