相続税の心配をされていた方には、相続財産の内容を検討した結果相続税が発生しないとわかると、何もしなくていいんだ、と安心される方もおられます。確かに相続税の申告の必要はありませんが、預貯金の払い戻し、不動産登記など相続財産の移転のために は、相続人間で遺産の分割協議を行いその分割内容を記した遺産分割協議書を作成する必要はあります。
本稿では、実務での遺産分割(協議)についてみていきます。
まずは遺言書の有無を確認
遺言書とは、誰に(法定相続人以外も含む)どの財産をどれだけ渡したいか、という被相続人(亡くなった人)の希望を記した書面です。相続では、亡くなられた人の意思が優先されるため、遺言書があれば遺産分割もその内容に従うことになります。そのため、相続が発生した場合は、まず最初に遺言書の有無を確認する必要があります。
なお、法定相続人については遺留分という最低限保障されている遺産取得分があります。よって、「子に財産を渡さない」という遺留分を無視した遺言は後に紛争となることが多いです。
遺言は、口頭で行っても有効とはなりません。民法は、遺言の形式を7種類に限定しており、自筆証書遺言、公正証書遺言が多く利用されています。
遺言書の取り扱いには要注意
遺言書を保管している、あるいは遺品整理で見つけた場合は、遅滞なく「検認」の手続をとる必要があります。検認とは、家庭裁判所で行う遺言書の開封手続です。検認は、遺言書の偽造・変造を防止するために必要とされています。検印を受けることなく開封することは絶対してはいけません。
検認は全ての遺言書に必要とされているわけではありません。「公正証書遺言」、法務局での保管制度を利用している「自筆証書遺言」には、検認の手続きは必要ありません。
相続人の確定(遺言書のない場合)
遺言があれば、原則、遺言書で指定された財産を指定された人が受け取ることになります。遺言がなければ、財産は法定相続人が相続することになります。
よって、遺産分割協議を行うためには法定相続人を確定する必要があるわけです。法定相続人には前妻との子どもや認知した子など、これまで面識の無い人がいるかもしれません。被相続人の誕生から死亡までの戸籍をすべて確認し、漏れなく相続人を調べきります。
遺産分割協議を終えた後に新たな相続人が現れた場合、遺産分割協議を再度行う必要が生じるため、相続人の確定は慎重に行います。
相続財産の調査
相続の対象となる財産や債務を金額の大小にかかわらず全てリストアップします。リストアップの際に財産や債務に漏れがあると、再度遺産分割協議を行うことになりたいへんです。
財産については、各財産の(凡その)時価を調べて記載しておくと遺産分割協議の際に役立ちます。
遺産分割の協議(遺産分割協議書の作成)
いよいよ遺産分割協議に入ります。遺産分割協議とは、遺言による相続指定のない財産をどのように相続人の間で分けるのか、相続人が集まって話し合う会議のことです。
遺産分割協議で決めた遺産分割の内容を書面にしたものが遺産分割協議書です。相続人全員が実印を押し、各人の印鑑証明書を添付します。
遺産分割協議書が必要となるケース
遺産分割協議書が必要となる主な相続手続きは次のとおりです。
1.金融機関での預金解約や口座の名義変更
2.証券会社での有価証券(株式)の名義変更
3.運輸局での自動車の名義変更
4.法務局での不動産の相続登記
執筆者
税理士 田中利征
税理士、経営財務コンサルタント/田中税務会計事務所長/企業家サポートセンター 代表/戸田市経営アドバイザー