<いろどり社会保険労務士事務所 代表 内川 真彩美/PSR会員>
2021年12月1日、「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令」が公布され、職場の衛生基準が見直されることとなりました。働く上で、職場の環境が大切なことは言うまでもありません。そこで今回は、改正された内容と、最近話題になりがちなテレワーク下での環境整備について解説していきます。
今回の改正のポイントとは
「事務所衛生基準規則」と「労働安全衛生規則」とは、いずれも労働安全衛生法を基に定められた厚生労働省令です。名称の通り、職場の安全・衛生基準が定められています。
今回の改正では、以下のような変更が行われました。
1.照度(作業場の明るさ)
事務作業をする際の照度基準が以下のように引き上げられました。
・一般的な事務作業:300ルクス以上
・付随的な事務作業:150ルクス以上
節電のために一部の蛍光灯をはずしたり、残業時間は最低限の照明で仕事をする企業もあるようです。照度は、6か月に1度は点検をすることが定められています。照度計という機器で測定できますので、定期的に測定しましょう。
2.便所の設備
多目的トイレや男女兼用トイレのような、男女を区別しない便所(以降、「独立個室型の便所」)を設けた際の位置づけが法的に定められました。
・独立個室型の便所を設置した場合、その数は男性用、女性用の便所の設置基準にも反映させる
・労働者が常時10人以内の作業場においては、やむを得ない場合に限り、独立個室型の便所の設置があれば足りることとする
法律では、職場のトイレの数は職場の労働者の人数によって、性別ごとに明確に定められています。トイレはオフィスビルの共用部であることも多く、会社の意向では変更しにくい部分かもしれません。しかし、自社の労働者数から適切なトイレの個数を知っておくことは、快適な職場環境作りに繋がります。
また、最近ではSOGIへの取り組みの一環として、多目的トイレの設置を考慮する企業も増えてきていることも知っておくとよいでしょう。
3.救急用具の内容
今までは、負傷者の手当てのために作業場に備えなければいけない救急用具や材料が具体的に決められていましたが、改正により、産業医や衛生委員会等で検討の上、職場ごとに必要なものを備え付ければ良いことになりました。
その他、シャワー整備や休憩室などの措置も、併せて変更されています。
室温や湿度も基準が決められている
事務所衛生基準規則では、他にも様々な基準が定められています。ここでは、一番身近な事務所の温度、湿度について紹介します。
空調設備を使用する場合の事務所の温度、湿度は、以下のように定められています。
・温度:17℃~28℃
・湿度:40%~70%
暑さや寒さは人によって感じ方が異なるため、特に夏場や冬場といった空調設備を使用する時期には、設定温度に悩むこともあると思います。
また、コロナの感染防止対策として、定期的に窓を開けて仕事をしている企業もあることでしょう。まだ寒気や乾燥も厳しい季節です。オフィスには温度・湿度を計測できる機器を設置し、湿度が低くなる場合には加湿器を利用するなど、定められた温度、湿度を保てるようにしましょう。
他にも、事務所の一酸化炭素や二酸化炭素の含有率や、定期的に計測すべき値とそれらの計測方法、更には、6か月以内に1度大掃除を行う、ということまで定められています。職場の環境の基準として、事務所衛生基準規則には一度目を通しておきましょう。
テレワークでも会社は作業環境整備の責任を負うのか
さて、ここまで読んできた方の中には、テレワークでもこれらの環境整備は会社が責任を負う必要があるのか、気になった方もいるかもしれません。自宅はオフィスとは異なり働く環境としての整備がされていないため、テレワークを導入した企業では、従業員から、自宅環境整備について相談、要望を受けたという話もよく聞きます。
テレワーク下での作業環境整備については、2021年3月に改定された「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」に記載されています。ガイドラインによれば、
「テレワークを行う作業場が、労働者の自宅等事業者が業務のために提供している作業場以外である場合には、事務所衛生基準規則、労働安全衛生規則及び「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」は一般には適用されない」
とされています。そのため、例えば自宅の湿度を40~70%に保つために加湿器を会社が用意してあげるとか、会社が計測器を貸与しなければいけない、ということはありません。とはいえ、ガイドラインには、
「安全衛生に配慮したテレワークが実施されるよう、これらの衛生基準と同等の作業環境となるよう、事業者はテレワークを行う労働者に教育・助言等を行い、(中略)、自宅等の作業環境に関する状況の報告を求めるとともに、必要な場合には、労使が協力して改善を図る又は自宅以外の場所(サテライトオフィス等)の活用を検討することが重要である。」
とも明記されており、法律が及ばないからといって、企業が労働者の自宅等の作業環境に無関心でいることを良しとはしていません。実際、自宅の作業環境整備のために手当を出したり、椅子やデスクの購入費を会社が負担するという企業もあります。
働く環境は労働者の健康にも大きく影響します。労使でしっかりと話し合い、事務所でもテレワークでも、良い環境を保つことを目指しましょう。
プロフィール
いろどり社会保険労務士事務所(https://www.irodori-sr.com/)代表
特定社会保険労務士 内川 真彩美
成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。