【専門家コラム】介護離職防止を強化し、人材の確保へ。介護両立支援に関する取組に向け「身近に実践できるポイント」

公開日:2024年12月26日


介護離職防止を強化し、人材の確保へ。

介護両立支援に関する取組に向け「身近に実践できるポイント」


<ごとう人事労務事務所 後藤和之/PSR会員

 

2024年3月、経済産業省では「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン(以下、ガイドライン)」が公表され、介護離職防止・介護両立支援があらためてクローズアップされています。

そのような中で、介護両立支援に関する会社独自の取組を充実させることは、人材確保戦略として他社との差別化にもつながっていきます。今回はガイドラインをヒントに、介護両立支援に関する取組に向け「身近に実践できるポイント」を考えていきます。

 

経済産業省が示した、介護両立支援に関する企業独自の取組の充実「4つの視点」

ガイドラインでは、介護両立支援に関する企業独自の取組を充実させる上で、次の「4つの視点」を示しています。

  1. 人事労務制度の充実
  2. 個別相談の充実
  3. コミュニティの形成(介護経験者同士による対話の場づくり など)
  4. 効果検証(アンケートの実施、取り組み改善 など)

ここからは、ガイドラインに示されている各視点の概要をご紹介していきますが、内容によっては、すぐに実現することが難しいことも考えられます。

そこで、視点ごとに「身近に実践できるポイント」を筆者独自が考える実践例などを交えてお伝えします。

 

1 人事労務制度の充実

ガイドラインでは、次のようなことについて触れています。

  • テレワークなどの柔軟な働き方の推進
  • 介護関連サービスの経済負担などのオプション導入
  • 独自の休暇制度の導入(サバティカル休暇 など)  など

【身近に実践できるポイント】既存の制度を「柔軟に運用する」ことから考えてみる!

法令通りに運用することが、まずは大切なことですが、従業員にとって法令より有利な条件であれば、会社独自の運用をすることも考えられます。

例えば、介護休暇が必ずしも年5日(対象家族が1人の場合)を超えてはいけないわけではありません。

特に、介護については、一人ひとりの従業員の事情はさまざまです。

会社にとって、そして従業員にとって、互いが良い方向へ導くことができるよう既存の制度を‘’柔軟に運用する‘’ことから始め、会社独自の取組の構築を目指してみましょう。

 

2 個別相談の充実

ガイドラインでは、次のようなことについて触れています。

  • 介護の専門家による相談窓口
  • 介護とお金の問題に関する相談窓口
  • 地域のケアマネジャーへの相談につなげる支援  など

【身近に実践できるポイント】介護の‘’キーワード‘’を押さえ、従業員との「対話」を大切に!

介護に特化した相談窓口を設けることが理想的ですが、育児・ハラスメント・メンタルヘルスなど人事労務に関する相談窓口は多岐にわたるため、すぐに設置が難しいことも想定されます。

まずは管理職や人事労務担当者が、介護に関する‘’キーワード‘’を押さえるだけでも変わっていきます。

例えば、介護保険であれば「地域包括支援センター」「介護支援専門員(ケアマネジャー)」など、障害福祉であれば「障害者基幹相談支援センター」「相談支援専門員(介護保険のケアマネジャーの役割)」などです。

これらの知識を知っているだけでも、相談をした従業員が「寄り添ってもらえている」という実感が生まれ、真の「対話」へと結びついていきます。

 

3 コミュニティの形成(介護経験者同士による対話の場づくり など)

ガイドラインでは、次のようなことについて触れています。

  • 会社公認のサークル活動として、「介護サークル」を開催
  • 仕事と介護の両立に関するポータルサイトを社内開示
  • 介護を経験したスタッフから、社内研修として「介護と仕事の両立セミナー」を実施  など

【身近に実践できるポイント】地域の「社会資源」を最大限に活用する!

社内でコミュニティが形成できれば、それが望ましいですが、介護経験者が少ない・会社規模が小さいなどの事由で形成が難しいことも考えられます。

その場合は、地域の「社会資源」をぜひ活用しましょう。

「社会資源」とは、医療や福祉領域などで使われる用語で、ニーズを解決するための「人」や「場所」などを指します。

介護に関する悩みを軽減したいニーズを実現するため、地域にある「地域包括支援センター」「社会福祉協議会」などが、介護経験者の講習・介護者同士の対話の場面などを開催している場合があります。

そのような情報を提供することも、コミュニティの形成の一つの方法です。

 

4 効果検証(アンケートの実施、取り組み改善 など)

ガイドラインでは、次のようなことについて触れています。

  • 仕事と介護の両立に向けて「全社員」「介護と仕事の両立中社員」それぞれに対する支援
  • 両立に取り組む従業員に向けた効果検証(例)
    ⇒支援施策の利用実態、施策利用の効果、同僚・上司からの支援状況、業務の生産性への影響 など
  • 介護に直面していない従業員に向けた効果検証(例)
    ⇒研修等を通じた情報発信の施策効果を図る観点で、制度等の認知実態を取得 など

【身近に実践できるポイント】「顧客へのサービス」と「介護」を結び付けることから始めてみる!

介護に限ったことではありませんが、その人自身に問題が直面していなければ、その問題に対しての意識は低くなる傾向があります。

例えば、介護両立支援から「顧客へのサービス」へ発想を転換し、「介護」を結び付けてみることも大切です。「認知症の方が、困らない接客は?」「車いすを利用している方が、利用しやすい仕組みは?」「介護で時間が限られている方が、来客してもらうためのPRは?」などです。
 
「顧客へのサービス」を通じて、従業員が「介護」への意識が高まった時に、介護両立支援のアンケートなどを実施すれば、介護を少しでも身近なものとして意識することにつながります。

そして、従業員間でそのような意識が醸成していけば、会社として介護両立支援に関する独自の取組を構築しやすい職場風土へもつながっていきます。

 

 

プロフィール 

後藤和之
ごとう人事労務事務所(https://gtjrj-hp.com
社会福祉士・社会保険労務士 
 

昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの業務に携わるとともに、福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。特定社会保険労務士として、人事労務に関する中小企業へのコンサルタントだけでなく、研修講師・執筆など幅広い活動を通じて、“誰もが働きやすい職場環境”を広げるための事業を展開している。

監修:退職後の社会保険と税の手続き(株式会社ブレインコンサルティングオフィス)

 

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