仕事をしながら介護に従事する‘’ビジネスケアラー‘’は増加傾向にあり、2030年時点では約318万人に上ると推計されています。その課題に対応することなどを目的に、2024年3月26日、経済産業省では「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン(以下、ガイドライン)」を公表しました。
今回は、ガイドラインの内容をふまえ、企業が取り組むべき「介護両立支援」のポイントを解説します。
企業が介護両立支援に取り組むために。経済産業省が示した「3つのステップ」
経済産業省のガイドラインでは、企業が取り組むべき事項として、次の3つのステップを示しています。
- ステップ1:経営層のコミットメント
- ステップ2:実態の把握と対応
- ステップ3:情報発信
ここからは、ガイドラインに示されている各ステップの概要をご紹介していくとともに、「バランス」をキーワードに推進ポイントを筆者独自に解説していきます。
~ステップ1~経営者のコミットメント
ガイドラインでは「経営者のコミットメント」として、次のような取り組みを示しています。
~STEP1~経営層のコミットメント 仕事と介護の両立支援において全社的に取り組む意向を示す □経営者自身が知る 「介護」を知り、企業活動への影響の可能性を認識しているか? □経営者からのメッセージ発信 仕事と介護の両立施策推進に向けて、ポリシーを発信しているか? □推進体制の整備 担当役員設置/担当者の指名、管理職層の巻き込みができているか? 出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」 |
【推進ポイント】当事者視点と経営視点とのバランスを大切に!
ここでの当事者視点は、経営者自身が介護をしている従業員に寄り添った視点を持っているかということです。
つまり仕事と介護の両立を、ワークライフバランスの重要な一つとして捉えているかということです。
一方で経営視点は、仕事と介護の両立が経営戦略や現場パフォーマンスなどにどのような影響を与えるのかという視点です。
ガイドラインでは、ビジネスケアラーによる2030年の経済的損失は約9兆円と示しており、経営における仕事と介護の両立支援が企業に与える影響を詳しく解説しています。
経営視点を示すことで、介護に直面していない従業員に対しても両立支援の大切さを伝えることができます。
「経営者自身が知る」「経営者からのメッセージ発信」が、当事者視点かつ経営視点の両方を兼ね備えているか、その実現のための「推進体制の整備」となっているかを確認しておきましょう。
~ステップ2~実態の把握と対応
ガイドラインでは「実態の把握と対応」として、次のような取り組みを示しています。
~STEP2~実態の把握と対応 □アンケート・聴取 社内の介護に関する状況をしっかりと把握できているか? □人材戦略の具体化 介護を行う従業員が活躍できるよう人材戦略を設計できているか? □適切な指標の設定 仕事と介護の両立支援に関して適切な指標を設定できているか? 出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」 |
【推進ポイント】キャリアアップだけでなくキャリアパスを大切に!
ここでのキャリアアップは、昇進することや責任が大きい仕事を任されるなどです。
介護を行う従業員からすれば、働く時間に制約が生まれることなどによりキャリアアップに影響が及ぶ不安を抱くことも考えられます。
「アンケート・聴取」などにより、会社が介護に関する状況を把握しようとしている姿勢が、従業員の不安を取り除くことにつながります。
さらに会社として、仕事と介護の両立するための道筋「キャリアパス」を示しましょう。
例えば、ワークライフバランスの実践を人事考課にふまえ、介護を行う従業員のモチベーションを高める仕組みをつくるなどの「人材戦略の具体化」ができているか。
そして、そのことにより従業員のパフォーマンスが向上しているかを確認できる「適切な指標の設定」を通じて経営へ反映させることも大切です。
~ステップ3~情報提供
ガイドラインでは「情報提供」として、次のような取り組みを示しています。
~STEP3~情報発信 企業がプッシュ型の情報発信を行うことで、従業員個人の将来的なリスクを低減 □基礎情報の提供 介護保険制度などの基礎情報をプッシュ型で提供できているか? □研修の実施 全社員向けにリテラシー向上の研修や管理職向けの両立支援推進に関する研修の機会を提供できているか? □相談先の明示 社内での相談先・プロセスを社員向けに明示的に伝えられているか? 出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」 |
【推進ポイント】従業員全体への視点だけでなく個々の従業員への視点を大切に!
従業員全体に対し、介護への理解を深めるのが「基礎情報の提供」「研修の実施」などの方法になります。
従業員全体が「介護を行う従業員を理解する」ということだけでなく、「介護を行うことになるかもしれない」「介護を受けることになるかもしれない」という意識の高まりが、互いのワークライフバランスを理解する職場風土の醸成につながっていきます。
そして、気兼ねなく相談できる「相談先の明示」を行うことにより、一人ひとりの従業員の介護の状況に合わせた支援策を講じることにもつながっていきます。
プロフィール
昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの業務に携わるとともに、福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。特定社会保険労務士として、人事労務に関する中小企業へのコンサルタントだけでなく、研修講師・執筆など幅広い活動を通じて、“誰もが働きやすい職場環境”を広げるための事業を展開している。
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