【専門家コラム】治療と就労の両立支援-取り組みステップの紹介-

公開日:2024年8月5日

 

治療と就労の両立支援-取り組みステップの紹介-


<合同会社DB-SeeD 代表社員 神田橋宏治>

両立支援をご存じですか?仕事と生活の両立を企業が支援するというものです。

育児と仕事の両立支援、介護と仕事の両立支援等々です。この中のひとつに治療と就労の両立支援があります。

今回はこの治療と就労の両立支援(以下「両立支援」と呼びます)についてお話しします。

 

厚労省も推奨!両立支援

疾病の治療を続けながら仕事も継続できることは、労働者だけではなく企業にとってもメリットがあります。

なぜなら、疾病になっても働けることを示すことで、本人だけでなく周りの労働者も安心し生産性が上がり退職リスクも下がると期待されるからです。

また企業の社会的責任(CSR)の実現といった意義もあるでしょう。

厚生労働省は「治療と仕事の両立支援ナビ」というサイトを立ち上げ両立支援を強力に推奨しています。

このサイトに2つの重要な資料「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」と「企業・医療機関連携マニュアル」が載っているのですが、ある調査によれば8割の企業が両立支援に今後取り組みたいと思っている一方で、このガイドラインを知っているのは半分以下、内容まで理解しているのに至っては5%程度でした。

以下、このガイドラインを中心に具体的な両立支援のやり方を説明します。

ガイドラインは厚労省のサイトを参照ください。

なお、両立支援の対象となる労働者は、パートやアルバイト等を含んだすべての労働者、対象となる疾病は、反復・継続して治療が必要な疾病全てです(捻挫、肺炎など短期に治る疾病は対象外)。

 

手順その1 始まるまでの準備

STEP1 宣言

会社トップが両立支援を行うと宣言します。

ある調査によると、両立支援はデメリットの方が大きいと思う従業員がメリットのほうが大きいと思う従業員の2倍以上にのぼりました。

会社トップが明確に宣言することで、「疾病を知られると会社から不利に取り扱われる」という不安が払拭されます。

厚労省も取り組んでいる国策だということを付け加えると一層効果的です。

 

STEP2 相談窓口の設置

相談窓口を作ります。

人事労務部門だけでなく、産業衛生部門があるなら一緒に対応することが重要です。

多くの従業員が疾病を知られたら人事上などでデメリットを受けるのではないかと心配しています。

保健師、産業医などは守秘義務があるので安心して相談できます。

相談窓口では両立支援のメリットについて説明したうえで、本人が両立支援を利用したいかどうかを確認します。

ここで重要なのは、両立支援は本人の申し出があって始まるということです。疾病があるからと言って会社が勝手に始めてはなりません。

 

手順その2 両立支援スタート

STEP3 主治医へ連絡

会社と本人が相談して、実際の仕事内容を説明し必要となる配慮や気を付けるべき点について尋ねる文書を作成し、これを本人が主治医に提出します。

ガイドラインにひな型がありますが形式は自由です。事業場に産業医がいる場合は、いっしょに文書を作成しましょう。

医師は医師相手の方が話しやすい傾向があり、主治医の意図をくみ取ったり、会社の実情に合わせて主治医に対して意見を出したりするのは産業医の得意とするところです。

 

STEP4 両立支援のプラン作り

主治医から会社あてに返答文書が届きます。産業保健スタッフか、それがいない会社は、衛生管理者や衛生推進者などが受け取ります。

この文書の内容に合わせて、両立支援プランを作成します。

①治療・投薬等の状況及び今後の治療・通院の予定
②就業上の措置及び治療への配慮の具体的内容及び実施時期・期間、具体的には配置転換や軽減業務、通院時間の確保等
③産業保健スタッフや人事労務担当者によるフォローアップの方法及びスケジュール

の三つは必ず盛り込んだ方がいい情報です。

 

STEP5 プランの文書化と業務上必要な範囲に限定した開示

具体的なプランができたら、それを文書化します。本人の同意のもと、誰に何を開示するかを決定します。

開示の対象は人事部門や上長だけとは限りません。例えば軽減業務に伴い同僚等の負担が増えるなら、理解を得るためにはある程度同僚にも開示することが望ましいです。

開示する対象にあわせて、業務上に必要な範囲に絞った情報を開示するようにします。

 

手順その3 アフターケア

STEP6 病状にあわせてプランの見直しをする

慢性的な疾病はよくなったり悪くなったりを繰り返すものです。

必要に応じてプランの見直しや主治医への問い合わせを行います。

このような丁寧な対応により疾病があっても安心して働くことができます。

 

STEP7 両立支援の規程化を目指す

いずれは両立支援の流れを規程化しましょう。

ただし一から作り上げるのは難しいです。

各都道府県にあるさんぽセンターに相談に行くと、懇切丁寧に指導・助言を無料で行ってくれますのでお勧めです。

 

おおよそこのような流れとなります。

いかがだったでしょうか。皆さんの会社でも是非「治療と仕事の両立支援」に取り組んでみませんか。

 

プロフィール

神田橋宏治
合同会社DB-SeeD(https://industrial.doctor.tokyo.jp/)代表社員
労働衛生コンサルタント、日本医師会認定産業医、建築物環境衛生管理技術者
1999年東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院助教などを経て、2011年4月から医療法人社団仁泉会としま昭和病院内科医として勤務。2015年に産業医事業を中心業務とする合同会社DB-SeeDを設立。2018年11月~現在 日本産業衛生学会代議員

 

 

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