【専門家コラム】「女性活躍」に必要なのは男性を含めた日本全体の働き方改革

公開日:2024年7月30日

 

「女性活躍」に必要なのは男性を含めた日本全体の働き方改革


<社会保険労務士法人出口事務所 代表社員 出口裕美/PSR会員>

 

「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下「女性活躍推進法」という。)が2016年(平成28年)4月から全面施行されましたが、2025年度(令和7年度)末までの時限立法ということをご存じでしょうか。

そして、全面施行からすでに7年が過ぎ、期限である2025年度末までに残り2年余りとなりましたが、さらに「女性活躍推進」するためには、何が不足しているのでしょうか。

 

これからの「女性活躍」に必要なのは男性を含めた日本全体の「働き方改革」

ここ数年で「女性活躍推進」に関するセミナーを開催する機会や講師をする機会が多くありましたが、その中で女性の私が個人的に感じたことがあります。

参加者は多いのですが、圧倒的に女性の参加者が多いことです。

セミナーによっては、2~3割くらい男性の参加者もおりましたが、一部の男性からの「(女性の皆様は)頑張ってね」と他人事のような応援メッセージが気になっていました。

「女性活躍推進法」という名前の法律ですが、必要なのは女性だけが頑張ることではありません。

女性活躍促進に必要なのは、女性も男性も含めた日本全体の働き方改革と家事・育児・介護などの見直し、分担または業務委託の検討です。

厚生労働省所管の国立社会保障・人口問題研究所が2022年に実施した「全国家庭動向調査」によると、夫婦の家事分担に関し、妻が担う割合が80.6%を占めています。

前回調査から2.6ポイント下がりましたが、平均の家事時間は、妻が平日247分(前回比16分減)、休日276分(同8分減)、夫は平日47分(同10分増)、休日81分(同15分増)と依然として高水準で、平日は妻が夫の約5倍の時間を家事に費やしているようです。

育児に関しても、妻は前回より1.6ポイント下がったものの78.0%を担い、平日は夫の約4倍となる524分、休日は2倍近くの724分を費やしているようです。

女性活躍促進をするためには、今まで妻が行っていた家事・育児を夫か他の家族か家事・育児サービスの業者にお願いする必要があります(参考1)。

また、独立行政法人労働政策研究・研修機構 「夫の就業時間数別、妻のフルタイム(FT)就業率と無職率(%)」によると、ふたり親世帯の場合、夫の週あたり就業時間が60時間を超えると、妻のフルタイム就業率が顕著に低下します。

夫の週あたり就業時間が60時間以下であれば、妻のフルタイム就業率がおおむね4割前後で推移しているのに対して、60時間を超えると、妻のフルタイム就業率が3割に急落していることが分かります(図表1)。

 

図表1「夫の就業時間数別、妻のフルタイム(FT)就業率と無職率(%)」

 

以上のことから、妻のフルタイム就業率を上げるためには、夫の週あたりの就業時間数は60時間以下にすることが一つのポイントとなります。

週あたりの就業時間数が60時間を月あたりに換算すると240時間、月あたり160時間(8時間/日×20日/月)の場合の残業時間は月あたり80時間(240時間-160時間)が一つのラインになっています。

 

参考1:厚生労働省所管の国立社会保障・人口問題研究所(社人研)「全国家庭動向調査」
図表1:独立行政法人労働政策研究・研修機構 「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査2018(第5回子育て世帯全国調査)」

 

これからの「女性活躍」に必要なのは女性の「正規の社員」

第1子出産後も就業継続している女性の割合は、約7割と近年上昇傾向にありますが、就業継続を希望していながら離職を余儀なくされた女性も一定程度存在しています。

これからは、企業は離職させるのではなく、育児休業給付金などの社会保険制度を活用し、正規の社員(多様な正社員を含む)で復帰できる体制を構築することです。

そして、総務省「労働力調査」から分かるように、女性雇用者における非正規の職員・従業員の割合は約5割となっていますが、正規の社員としてのキャリアを最大限に活かす環境がなければ、人材不足の中で、企業が存続することはできなくなるでしょう。

今後は、「女性活躍推進」は卒業し、男性女性問わず、さらなる「働き方改革」をすすめる中で、「多様な社員の活躍推進」を促進していく段階に来ているのではないでしょうか。


図表2「正規の職員・従業員、非正規の職員・従業員数の推移」

参考:厚生労働省 「令和3年版働く女性の実情」 図表3-7-4 正規の職員・従業員、非正規の職員・従業員数の推移

 

これからの「多様な社員の活躍推進」

もう、「女性活躍推進」と限定している状況ではありません。男性でも女性でも正規の社員でも非正規の社員でも、若い社員でも高齢の社員でも誰もが活躍できる社会にする必要があります。

誰もが育児であったり、介護であったり、療養であったり、働きながら学ぶ時期であったとしても、その時期にあった働き方を正規の社員という地位にありながら選べるような「多様な社員の活躍推進」をする必要があるのではないでしょうか。

 

プロフィール

出口裕美

社会保険労務士法人出口事務所 代表社員
(https://www.deguchi-office.com/)
特定社会保険労務士

2004年に社会保険労務士事務所を開業。出産を機に、育児と仕事の両立のためテレワーク(在宅勤務)を開始。2014年に社会保険労務士法人出口事務所に法人化。2017年にテレワーク(サテライトオフィス勤務)を開始。2020年に新型コロナウイルスの取り組みの様子をメディアにて紹介。

経営者と社員が継続的に安心して働ける環境を構築するため、インターンシップ、ダイバーシティ(雇用の多様化)、テレワーク、業務管理システム等を積極的に導入し、また企業への導入支援コンサルタントとしても活動中。

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