休職している従業員の復職に向けて注意すべき点とは
<ひろたの杜 労務オフィス 代表 山口善広/PSR会員>
メンタルヘルスの不調によって休職している従業員の復職は、どのように決定していますか?
怪我による休職と違い、従業員の心の中の状態は外からは見えません。本当に従業員を復職させても業務の遂行ができるのだろうかと苦慮されていることが多いかもしれません。
ここでは、従業員を安全に復職させるためのプロセスについてお話していきましょう。
そもそも休職とはどのような状態を指すのか
休職は、雇用している従業員が業務の遂行ができなくなった状態になった場合に、会社側がその従業員に対して在籍を認めつつ業務を免除・禁止することです。
したがって、休職の制度については通常、就業規則で休職の対象とする従業員の種類や休職期間、復職の決定方法、復職できなかった場合の対応などについてあらかじめ規定しておきます。
ただ、休職に関する規定がなかったとしても、会社側と従業員との間で上記のことについて個別に話し合い、双方が合意した上で休職命令を出すことも可能ではあります。
その際は、従業員間の公平性を確保するために、早期に休職規定を作成するようにした方が良いでしょう。
さて、従業員に休職を命じて療養させた後、休職期間が切れる時期になると復職に向けた段取りが必要になります。
まずは、従業員の主治医から復職できるのかどうかの所見を出してもらうことがスタートとなります。
従業員から主治医の診断書を提出してもらうこととし、復職できるのかどうか医師の立場から判断してもらうわけです。
しかし、主治医は、会社の業務内容を詳しく知っているわけではありませんから、従業員側から得られる限られた情報で復職が可能か判断せざるを得ません。
なので、産業医がいる場合は、産業医の判断も復職のプロセスに入れるべきでしょう。
産業医がいない場合は、従業員の主治医と話し合うプロセスを入れても良いですね。
ただ、主治医や産業医だけの判断だけでは、従業員が本当に回復しているかどうかわからないこともあります。
その際は、リハビリ出勤の制度を取り入れて判断することをお勧めします。
リハビリ出勤で従業員が復職可能か判断する
主治医や産業医が復職可能と判断したとしても、実際に会社へ行って業務をするのは、休職していた従業員にとってプレッシャーとなることがあります。
その場合、少しずつ従業員が業務に慣れていくためにリハビリ出勤をしてもらうのです。
まず第一段階として、従業員に「通勤」のみしてもらいます。
通勤といえども、休職中の従業員にとっては、電車に乗ったりするのは大変なことですので、自宅と会社の往復をしてもらい、通勤に慣れてもらうのです。
通勤をクリアできたら、数時間だけ出社をする段階に入ります。
たとえば午前中だけ会社にいてもらい、職場の雰囲気に慣れてもらうのが目的です。
会社にいる間は、何もしてもらわなくても良いし、簡単な作業をしてもらうことも良いですが、作業といえども業務ということになると賃金が発生します。
先ほど述べた通勤のリハビリも、会社命令での通勤となると通勤費を支給する必要が出ますし、その間、何か事故に巻き込まれた場合は通勤災害に該当することも視野に入れる必要がありますので慎重に制度を設計しましょう。
このように少しずつ会社にいる時間を長くして従業員が通常の業務をすることができるように導く制度を整備することで、会社側だけでなく従業員も安心して復職できることにつながります。
ただ、リハビリ出勤の導入は、健康保険の傷病手当金が支給されている環境である方が、従業員も経済的な面で安心できるでしょう。
したがって、傷病手当金の支給期間がいつ終わるのか(通算1年6ヶ月)を認識しておくことが大切です。
さて、会社側にとって困るのが、従業員側が復職を希望しているのに対し、会社側が復職を認めないというような、見解が対立しているケースです。
基本的には、従業員側の主治医が復職可能である見解を示しているのであれば、会社側は産業医等の見解だけでなく、何か合理的な理由がないと復職を認めないのはトラブルに発展する可能性が高くなります。
とは言っても、従業員の復職を認めたものの、また体調が悪くなって休んでしまうようなことがあると、業務の段取りを立てづらいこともあるでしょう。
そのためにも、会社側はいきなり復職を許可するのではなく、従業員の経済面に配慮しつつ業務に慣れてもらうリハビリ出勤の導入を検討されてみてはいかがでしょうか。
その際は、労務管理のプロであるお近くの社会保険労務士に就業規則の整備などについてご相談されることをお勧めします。
参考
プロフィール
ひろたの杜 労務オフィス 代表(https://yoshismile.com/)
営業や購買、総務などの業務を会社員として経験したのち、社会保険労務士の資格を取る。いくつかの社会保険労務士事務所に勤務したのち独立開業する。現在は、労働者や事業主からの労働相談を受けつつ、社労士試験の受験生の支援をしている。