【専門家コラム】「ひとり親」の就業環境を整備する上での必要な視点とは?

公開日:2024年4月30日

 

「ひとり親」の就業環境を整備する上での必要な視点とは?


<ごとう人事労務事務所 後藤和之/PSR会員>

 

令和3年度全国ひとり親世帯等調査(厚生労働省)では、就業しているひとり親世帯の親の帰宅時間について、母子世帯の母では「午後6~8時」に帰宅する者が43.8%、父子世帯の父では「午後6~8時」が45.3 %とそれぞれ最も多くなっています。

そのために「ひとり親家庭の親(以下、ひとり親)」は、こどもと過ごす時間が限られているのが現状です。

今回は「ひとり親」の就業環境を整備する上で、どのようなことに留意すべきかを考えていきます。

 

「ひとり親」の就業環境を整備する上での3つの視点

視点①従業員の個別性を大切に!

まずは従業員の個別性を法律の解釈により、読み解いていきます。

法律を遵守することは当然必要ですが、「労働基準法などの法律は最低基準である」という認識も併せて必要です。

例えば、育児・介護休業法にある「時間外労働の制限」については、小学校就学前の子を養育する労働者を対象としており、時間外労働を減らすことで保育園の迎えなどに時間を当てることができます。

そのため、小学校へ入学すれば「時間外労働の制限」は、法律上義務ではなくなります。

共働き夫婦であれば、時間外労働があったとしても、夫婦で家事・育児などを分担しながらワークライフバランスを実現できるかもしれません。

しかし「ひとり親」であれば、「時間外労働=こどもと過ごす時間が確保できない」ことになります。特に小学校低学年であれば、こどもと過ごす時間を少しでも確保したいところです。

法律を画一的に解釈するだけでなく、「ひとり親」の悩みなどの‘’個別性‘’を最大限に尊重し、法律を柔軟に解釈することで「ひとり親」が働きやすい環境をつくっていきましょう。

 

視点②伴走的なキャリア開発を!

一方で「ひとり親」の多くは、経済的な不安があることも事実です。

近隣に頼る親戚などがいなければ、『子を養育する役割』と『経済的な役割』を夫婦それぞれでどちらかを担う、または夫婦が分担して担うなどの方法はなく、一人で担わなければなりません。

そして、テレワークなどの環境下になければ、基本的にその2つの役割をまったく同じ時間に行うことはできません。
 
この「ひとり親」が抱える『経済的な役割』を‘’キャリア開発‘’を通じて、長期的な視点から捉えることが大切です。

まずは、会社が定期的な面談などによって、『子を養育する役割』と『経済的な役割』を両立する「ひとり親」の気持ちに寄り添っていきましょう。

そして、会社がこどもの成長を温かく見守りながら、「ひとり親」とともに職業人としてのキャリアを共に考えることで、『経済的な役割』の見通しを共有していきましょう。

このような会社の伴走的な支えが、「ひとり親」が会社で長く活躍することへとつながっていきます。


視点③会社としてこどもの幸せを追求!

会社としてこどもの幸せを追求する方法は、大きく分けて3つ考えられます。

1つ目は「商品・サービス」を通じたこどもの幸せです。

おもちゃを製造する会社であれば、おもちゃが売れればこどもの幸せに直接つながります。

また、こどもを直接の対象としなくても、その保護者を対象とした商品・サービスであれば、間接的にこどもの幸せにつながります。

つまり、質の高い商品・サービスであれば、直接的であれ間接的であれ、こどもの幸せにつながります。

2つ目は「CSR(企業の社会的責任)」を通じたこどもの幸せです。

例えば『自社商品に関するこども教室を開催する』『こどもが職業体験できる機会を設ける』『売上げの一部をこどもの成長のために寄付する』などです。

3つ目は「従業員のワークライフバランス」を通じたこどもの幸せです。

就業環境などを整備することによって、働くことを通じた‘’保護者である従業員の幸せ‘’が、結果としてこどもの幸せにもつながるということです。

会社として「商品・サービス」「CSR」「従業員のワークライフバランス」の3つの方法が実現できれば、企業としてこどもの幸せを願う強いメッセージとなります。

そして、この強いメッセージが「ひとり親」が働きやすい環境をつくるだけでなく、将来的な会社の成長にもつながっていきます。

 

「ひとり親」の就業環境に関する実践例

この3つの視点をふまえ、具体的な企業の実践例を厚生労働省で毎年行われている「はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」からご紹介します。

ぜひ、厚生労働省ホームページを通じて、受賞した企業からのメッセージも直接ご覧ください。

なお、「ひとり親」に関する施策全般は、令和5年4月より厚生労働省から「こども家庭庁」へ移管しています。

 

厚生労働省「はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」受賞企業の取り組み
~令和元年度から令和4年度に受賞した企業の取り組みから~
 

・採用にあたっては、会社説明、勤務相談など、母子家庭等就業・自立支援センターと積極的に連携を図って
います。


・子の看護休暇を就業規則に規定しています。また、時間休制度を設けて急な休みにも対応できるようにして
います。


・定期的に面談を行い、家庭と仕事の両立で困ったことがないかなどお聞きし、必要に応じて社内で共有・対
応しています。


・参観日等の短時間の休暇も積極的に取得を促しています。


・ひとり親家庭であることによる時間的制約に対する職員間理解の向上を図っています。


・職員の相談に様々な分野で対応できるよう、人事課・庶務課・厚生課・健康保険組合等を集約した相談窓口
を設置しています。


・多様なライフスタイルを持つ様々な世代の方を配置して勤務表を作成することでフォロー体制を構築して
います。

 

 

▼参考
・厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188147_00013.html
・厚生労働省「令和4年度 はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」
 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32003.html
・厚生労働省「令和3年度 はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」
 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_24516.html
・厚生労働省「令和2年度 はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」
 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_17460.html
・厚生労働省「令和元年度 はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」
 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10379.html

 

プロフィール 

後藤和之
ごとう人事労務事務所(https://gtjrj-hp.com
社会福祉士・社会保険労務士 
 

昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの業務に携わるとともに、福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。特定社会保険労務士として、人事労務に関する中小企業へのコンサルタントだけでなく、研修講師・執筆など幅広い活動を通じて、“誰もが働きやすい職場環境”を広げるための事業を展開している。

監修:退職後の社会保険と税の手続き(株式会社ブレインコンサルティングオフィス)

 

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