人事労務担当者がパパ育休取得時の相談で注意したい
社会保険料免除制度
<みのだ社会保険労務士事務所 代表 蓑田真吾/PSR会員>
2022年10月に育児介護休業法が改正され、具体的な事例に頭を悩ます人事労務担当者が多く見受けられます。
今回の「大改正」はいわゆる「パパ育休」の取得促進に焦点があてられており、人事労務担当者の経験則が働くママ育休よりも難儀なケースが散見されます。
人事労務担当者が誤った説明をしないよう今後のパパ育休での社会保険料免除制度について、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
育休中の社会保険料免除制度
まずは確認的な意味合いで当制度の全体像をみていきましょう。
当制度を申請することで本人負担分だけでなく、会社負担分も社会保険料が免除されます。かつ、全額会社負担とされている「子ども・子育て拠出金」も免除されます。
旧来は申し出をした月から免除となっていたため、申請のタイミングによっては十分な恩恵を受けることができなかったケースもあったため、人事労務担当者泣かせの制度でした。
しかし、現在は育児休業を開始した日の属する月から免除となります(休業している間に届出をする必要があり、届出が遅くなると追加で「申出書(遅くなった経緯の説明)」の提出を求められる場合あり)。
2022.10月以降 育休中の社会保険料免除制度(給与)
本記事ではパパ育休で実務上、人事労務担当者が注視すべき部分にフォーカスすることとします。
端的には免除対象となるか否かは後述する2つのポイントがあります。
1点目は法改正前後を通じて変更がない部分ですが、末日が育児休業中である場合です。
2点目は当月中に14日以上育児休業を取得した場合です。補足として性別によって制度内容が変わることはありませんが、特に女性よりも短期間の育休になりがちな男性従業員の場合、2点目に注意する必要があります。
参考までに下図は男女の育休取得期間の統計であり、男性は「5日未満」が最多という結果です。
出典:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf
そこで、具体例を用いて検討しましょう。
出産を控えた男性従業員から育休に関する相談があった際に人事労務担当者が「14日以上育休を取得した場合」も免除になりますと説明したとしましょう。
女性と異なり、男性の場合、生物学的に出産はできませんので、産前産後休業は取得することはできませんが「出産予定日」から育休を取ることが可能です。
本説明を聞き、月末は繁忙期のために育休取得が困難と考え、例えば3月1日から3月14日まで育児休業を取得したとしましょう。
この場合、問題なく3月分の社会保険料(かつ会社としては子ども・子育て拠出金も)は免除の対象となります。会社の規程で育児休業中は無給としている場合、育児休業期間中の給与負担がなくなることと併せて社会保険料は全額免除され、それだけでなく、給与が上がるにつれ高額化する雇用保険料も低くなりますので、会社としてもメリットは無視できません。
他方、2月28日から3月15日まで育休を取得したとしましょう。
この場合、2月は月末に育休を取得していますので、2月分の社会保険料は免除となります。しかし、3月分は免除になりません。
ここで、「14日以上育休を取得した場合も免除になると説明を受けたが」という話に発展することが予想されます。
制度内容としては「14日以上育休を取得した場合」の要件が認められるのは開始月と終了月が同じ場合でなければなりません。このケースでは、3月1日から育休を開始し、14日はおろか15日間の育休を取得していますが、開始月が前月である2月ですので本要件を満たしていないということになります。相談者にとっては2月と3月が免除になると理解していたと思われますので、予め「2月だけ」が免除対象月と伝えておくべき事例です。もちろん、会社としても公的保険料の中でも最も高額である社会保険料の1か月分は無視できないでしょう。
2022.10月以降 育休中の社会保険料免除制度(賞与)
これまでの内容は「給与」の場合に限った話であり、「賞与」の場合は「1か月超」育休を取得した場合に限って免除されるように改正されています。
言葉を選ばずに申し上げると、一般的に給与より高額になることが多い賞与において、賞与の社会保険料免除目当てで月末に1日のみ育休を取るという法の趣旨と逆行した取得事例も散見されていました。
早速、具体例をみていきましょう。
3月1日から3月31日に育休を取得した場合で3月に賞与が支払われた場合、社会保険料は免除されません。なぜなら1か月を超えていないからです。
他方、3月1日から4月1日まで育休を取得した場合で3月に賞与が支払われた場合、社会保険料は免除されます。ポイントとしては賞与の社会保険料免除可否を判断するにあたっては1か月プラス1日とおさえておくのがよいでしょう。
最後に
国民年金の免除制度であれば産前産後休業期間中の免除制度を除き、免除制度を申請することで年金額が一定額減額されてしまいますが、社会保険の場合はそのようなデメリットはありません。
そして、免除期間中に健康保険の被保険者証も問題なく使えますので、労使ともにデメリットがありません。育休は人生において数少ない限られた経験です。制度を賢く活用できるよう人事労務担当者からリードしてみてはいかがでしょうか。
プロフィール
みのだ社会保険労務士事務所 代表 社会保険労務士 蓑田真吾(https://www.minodashahorou.com)
1984年生まれ。社会保険労務士。都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談(病院側・労働者側双方)や社会保険に関する相談(同左)を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名を超え、約800名の新規採用者、約600名の退職者にも対応してきた。社労士独立後は労務トラブルが起こる前の事前予防対策に特化。現在は様々な労務管理手法を積極的に取り入れ労務業務をサポートしている。また、年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。