<コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬/PSR会員>
企業業績が下落する代表的な要因のひとつに、社員が気持ちよく働ける職場ではないという問題がある。
なぜ、社員が気持ちよく働けないと、企業の業績が下がってしまうのだろうか。
今回は、その仕組みを考えてみよう。
「離職率の高さ」が「業務品質の低下」を招く
業績が思わしくない企業には、いくつかの共通点が存在するものである。そのうちのひとつが、社員が気持ちよく働ける職場ではないという状況である。
一般的に、社員が気持ちよく働けない職場は離職率が高く、人材の定着率が低い。また、離職率の高い企業は労働市場での評価が低いので、新しい人材の獲得も容易ではない。そのため、採用活動を頻繁に行わなければならず、採用コストが膨張しがちである。
さらには、新人研修を頻繁に実施することとなるため、教育研修コストも膨らみやすい。
また、人材の定着率が低い職場では、どのセクションも常にキャリアの浅い人材が相当数、配置されることになる。その結果、業務の品質が低下しやすいという特徴がある。
例えば、キャリアの浅い人材ばかりが配属され続けた結果として、営業部門では「既存顧客の離反」「新規顧客の獲得の困難化」などが、製造部門では「不良率の拡大」「納期の遅延」などが発生しやすくなる。
さらに、カスタマーサービス部門では「クレーム処理率の低下」「クレームの拡大化」などが、総務・経理部門では「不適切な行政対応」「給与計算の誤り」などが生じやすい。
つまり、離職率の高い職場は、ありとあらゆる経営トラブルに見舞われやすくなるのである。
「離職しない社員」がトラブルメーカーになることも
一般的に、社員が企業に見切りをつけた場合には、「スキルの高い社員」「エンプロイアビリティ(企業に雇用される能力)の高い社員」から先に退職する傾向にある。
ところが、同じように職場に不満を持っていたとしても、スキルやエンプロイアビリティの低い社員の場合には、「本当は会社を辞めたいけれど、新しい職場を見つけるのは大変だから、我慢して会社に残る」という選択をするケースが少なくない。
そのため、社員が気持ちよく働けない職場で離職せずに残っている社員は、ビジネススキルに問題を抱えるケースもあり、また、概して仕事に対するモチベーションが低い。その結果、一定の社歴があるにもかかわらず、前述のような種々の経営トラブルの発生要因となってしまうことがある。
さらには、「モラルに欠ける行動をとる」など、コンプライアンス上の問題を起こしてしまうケースさえ散見される。
以上のように、社員が気持ちよく働けない職場では、企業業績に“マイナスの影響“を及ぼす現象ばかりが発生することになる。
これが「社員が気持ちよく働けない職場は、業績が下落する」といわれる所以(ゆえん)である。
『火種』の場所に気付けないリーダーでは、業績は改善しない
経営上のトラブルを火災になぞらえた場合、例えば営業部門で発生する「既存顧客の離反」「新規顧客の獲得の困難化」などの諸問題は『炎』であり、社員が気持ちよく働ける職場ではないという状況はその『火種』に相当する。
従って、「既存顧客の離反」「新規顧客の獲得の困難化」という『炎』をしっかりと消したければ、社員が気持ちよく働ける職場ではないという『火種』を消さなければならない。
ところが、経営の現場で発生する諸問題の『炎』と『火種』との関係を見極められるリーダーは、必ずしも多くはない。
そのため、リーダーが『炎』と『火種』とを見誤り、表面的な課題の解消ばかりに注力する姿は目にすることが多いものである。
この場合、一時的にトラブル状態が改善したとしても、残った『火種』によって事態は再び悪化するので、根本的な問題解決に至ることがない。『火種』の場所に気付けないリーダーの下では決して火災は収束せず、業績下落は止められないのである。
法令では解決できない「職場づくりの課題」に取り組むことがポイント
それでは、社員が気持ちよく働ける職場をつくるには、どうしたらよいのだろうか。
もちろん、法令を遵守した企業運営を行うことは最低限必要である。ただし、企業は法令さえ遵守していれば、必ず気持ちよく働ける場所になるわけではない。
例えば、職場のリーダーが不愛想だとしよう。一般的に、不愛想なリーダーの下で、社員が気持ちよく働けることはない。
しかしながら、「リーダーは愛想がよくなければならない」などと定めた法令が、存在するはずがない。
このように、社員が気持ちよく働ける職場をつくる上では、法令は万能ではない。
従って、法令を遵守した上で、さらに法令では解決できない「職場づくりの課題」にいかに取り組めるかが、企業を“持続的に成長する組織”に変革するための大きなポイントとなるわけである。
法令では解決できない「職場づくりの課題」は多種多様であり、また、企業ごとに抱える課題が異なることも多い。しかしながら、自社の課題については、社員一人ひとりの思い・考えを情報収集することで発見できるであろう。
一度、「社員の声」に真摯に耳を傾けてみてはいかがだろうか。
プロフィール
組織人事コンサルタント/中小企業診断士・特定社会保険労務士 大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ( https://www.ch-plyo.net)代表