<メンタルサポートろうむ 李 怜香/PSR会員>
前回は、米国ギャラップ社による会社の業績を診断できる12の指標「Q12(キュー・トゥエルブ)」の概略をご紹介した。今回からは、一つひとつの質問について、上司が部下にどのようにふるまったらよいのかを見ていこう。まずは、「仕事の基本部分」に当たるQ1だ。
Q1.職場で自分が何を期待されているのかを知っている。
I know what is expected of me at work. (Focus Me)
部下が5点満点でこの質問に答えたとき、高い点数が出るだろうか。基本とは言え、今までのやり方に安住している上司にとっては、案外ハードルが高いかも知れない。
◆やり方だけではなく、成果や目的を伝える
この質問で、部下が高い点数を出す上司の行動は2つある。
1つめは、その仕事にどのような成果が求められているのか、目的は何なのか、部下にはっきり理解させることだ。忙しい上司は、つい「やり方」だけを指示して、それで終わりにしがちだ。しかし同じ仕事をするのでも、その意味が分かっているかいないかでは、仕事へのモチベーションに大きな影響がある。
ナチスの強制収容所では、「午前中に穴を掘って、午後はその穴を埋める」という作業を、被収容者への懲罰として課したという話がある。まったく意味の分からない作業は被収容者の心身を蝕み、多くは短期間に死亡したそうだ。
しかし世の中には、穴を掘るのに等しい重労働はたくさんある。それに耐えられるのは、大変ではあっても、その意味や目的を知っているからだ。さらに、その差は成果にも当然影響が出てくる。
例えば、上司が部下に、ワープロでの書類作成を指示したとしよう。単に「このアプリケーションを使って、このような手順でやりなさい」と指示した場合でも、その通りに実行すれば、一応の成果は出るだろう。
だが、どのような場で誰に見せるための書類なのかが分かっていないと、ピントのぼけたものになってしまう。また、書類の内容によっては、ワープロではなく表計算ソフトで作成したほうが効率よくできるかも知れないし、プレゼンテーションソフトを使ったほうが見栄えがよいものができるかもしれない。だが、上記のような指示では、こうした可能性も塞いでしまうことになる。
単にやり方だけを指示する、それも上司がよいと思うやり方を部下に押し付ける、さらにはそれを守らないと不機嫌になる……このような上司では、この質問の部下の点数は低いままだろう。
Q1で部下が高い点数を付ける上司の行動の2つめは、成果に至るまでのやり方は、個々人の特性に配慮して、ある程度部下にまかせることだ。
因みに、12の質問には覚えやすくするための短い略称がついており、Q1の略称は“Focus me(わたしに焦点を当てて)”だ。つまり、上司には「部下の特性を理解する」という観察眼が必要であることを示している。
普段からしっかりと、部下の得意なこと、苦手なこと、仕事に対する態度を観察する。そして、よい聞き役として、部下の意見や気持ちを聴く。加えて、的確な質問をして情報を集め、部下の人となりが自分の見立てと本当に合っているかを確認する態度も求められるだろう。
また、こうした観察眼に加え、「期待して待つ」ことも必要だ。自分が指示した行動ができているかどうか、それだけに焦点を当てている上司は、なかなかこれができない。部下に任せた以上、一定の成果が出るまで(もしくは成果が出ないことが分かるまで)「待つ」という忍耐力が求められる。同時に、部下の出した結果が期待通りでなかった場合、「責任を持つ」という覚悟も問われる。
さらにはこうした際、職務ごとに「上司である自分が認めた」正しい行動があると考え、個人ごとの違いを無視してはいないだろうか。同じ職務であれば誰であろうと同じ行動をしろ、そこから逸脱することは自分に逆らうことであり許されない……このような考え方は、パワハラの温床ともなってしまう。
もう一点加えるならば、部下に指示している自分流のやり方が常にベストなのか、という点もぜひ顧みて欲しい。必ずしも正解は1つではない。部下からの提案を考慮する柔軟性も求められる。
いかがだろうか。案外難しいなぁ、と思われたかも知れない。だが、これらを意識した上で部下に接することが、生産性を向上させ、働きやすい職場をつくる近道なのだ。
プロフィール
メンタルサポートろうむ(http://yhlee.org)代表