<Office CPSR(オフィス シーピーエスアール)臨床心理士・社労士事務所 植田 健太/PSR会員>
臨床心理士としていろいろな方とお話ししていて、感情のコントロールの仕方を教えてくださいといわれることが多くある。
同僚や取引先、家族などと言い合いになってしまった、仕事上の失敗で自信をなくしてしまうなど、生活していると怒りや不安が出てくることはあるだろう。
怒りや不安が起こるのは自然なことではあるが、そのまま怒りや不安をずっと抱えこんでいては、不要なミスを招いたり、周りに八つ当たりしてしまったりすることもあるかもしれない。
感情をコントロールして怒りや不安を抑えることができると、過去にとらわれることなく集中して取り組めるので、ビジネスマンとしてさらに結果を出すことができるだろう。
感情をコントロールするときに大切なのは、認知(考え方、捉え方)を変えることである。しかしながら、簡単に認知を変えることは難しいものだ。
◆認知を変えることの難しさ
例えば有名な「シロクマ実験」というものがある。
シロクマ実験とは,1987年にアメリカの心理学者であるウェグナー(Wegner, D. M.)という人物によって行われた。
実験の概要は以下のようなものだ。
1.まず、実験に参加した協力者たちをA~Cの3つのグループに分ける。
2.次に各グループにシロクマの1日を追った映像を見せます。
3.そして、それぞれのグループにそれぞれ違った依頼をする。
4.Aグループには、「シロクマのことを覚えておいてください」とお願いする。
5.Bグループには、「シロクマのことを考えても考えなくてもいいです」とお願いする。
6.Cグループには、「シロクマのことだけは絶対に考えないでください」とお願いする。
7.その後協力者には一旦解散してもらい、ある一定期間をおいて、再度集めて映像のことについて覚えているか尋ねる。
さて、A~Cのグループのうち、シロクマの映像のことを覚えていたのはどのグループだろうか。
最もシロクマの映像を覚えていたのは、実は「シロクマのことは絶対に考えないでください」とお願いされていたCのグループだったのだ。
この実験から、認知をコントロールするのがいかに難しいかが理解できるだろう。考えるなと言われると考えてしまうものなのだ。
では、どうすればいいのだろうか?
認知行動療法では、いろいろなワークシートを用いて認知の癖をなくしていくのだが、もっと手軽な方法もある。
◆認知の癖をなくし感情を抑える、手軽な方法とは?
認知の癖をなくす手軽な方法とは、いつもの認知が浮かんだ時に、とっさに「と思った」と付け加えることだ。
例えば、
「自分はミスが多い」、「自分なんて価値がない」
と考えて落ち込んでしまう場合は、
「自分はミスが多い」と思った、「自分なんて価値がない」と思った
と付け加える。
たったこれだけで、落ち込むに至った内容は確実なものではなく、ただの推測の言葉となる。認知と距離を置いて、第三者目線で冷静になることができる。
これは、不安な感情だけではなく、怒りの感情にも有効だ。
「あいつなんて理不尽なんだろう。許せない」も
「あいつなんて理不尽なんだろう。許せない」と思った
とすると、怒りもコントロールすることができる。
不安や怒りの感情をある程度コントロールできるようになれば、不要な争いが避けられて、仕事や日常生活で過ごしやすくなるはずだ。
ぜひ試してみていただきたい。
プロフィール
Office CPSR(オフィス シーピーエスアール)臨床心理士・社労士事務所(http://cp-sr.com)代表