<メンタルサポートろうむ 李 怜香/PSR会員>
長時間労働の弊害が指摘されるようになって久しいが、今や多くの企業が残業削減に取り組んでいる。やるべきことは多くあるが、誰もがすぐに思い浮かぶ施策として「ノー残業デー」があるだろう。これには費用もかからないし、社内で通達を出すだけなので、実行も簡単だ。しかし実行は簡単でも、周知の仕方や従業員への意識付けなどによって、効果には大きな差が出てくる。では、ノー残業デーを実施するにあたり、具体的にどのような点を意識すれば、残業削減の効果があがるのだろうか。
◆ノー残業デーは、残業を削減していくための“習慣作り”
ノー残業デーを実行すると、従業員の生活には以下のような良い影響がある。
・家族と夕食を食べて、団らんすることができる。
・スポーツジム通いや習い事など、プライベートの定期的な予定が立てやすい。
・仕事帰りにショッピングや映画等を楽しみ、リフレッシュできる。
・定時に帰りにくい雰囲気があっても、その日は堂々と帰ることができる。
反面、その効果については、冷めた声も出てくるだろう。以下の3点が代表的なものだ。
・単に他の日の残業が増えるだけ。
・持帰り残業せざるを得なくなり、残業時間を申告することができず、サービス残業になってしまう。
・その日だけ早く帰っても、やることがないので、会社にいて残業代を稼いだほうがよい。
こうした負の影響はすべて、経営者・管理職が、ただ無策のまま、「定時に帰らせればよい」と思っているから出てくることだ。
ノー残業デーは、その当日、定時に帰ることが目的ではない。それ以外の日の残業も削減するための“習慣作り”だと考えるべきである。
当然ながら、1日の仕事を決まった時間に終わらせるためには、やるべき仕事をいくつかのタスクに細分化して、どのタスクにはどの程度の時間がかかるのか見積もり、見積もった時間内に終わらせるよう、集中して取り組まなくてはならない。
「今日は残業できないから」と、終業時間を意識することが、一つひとつのタスクの終了時間を意識することにつながり、ひいては仕事の効率化につながっていくのだ。
そのような働き方を、他の日にも広げていかなくては意味がない。ノー残業デーを社内に周知するとき、その意味付けをしっかりと浸透させる必要があるだろう。
別の観点から言えば、ノー残業デーの1日にできる仕事の量から、「適正な仕事量」を類推することができる。
どれほど集中して打ち込んでも就業時間内に終わらないのであれば、個人の努力の問題ではなく、業務の配分自体に問題があるということになる。恒常的な残業があるとすれば、そこに手をつけなくては、残業を抜本的に削減することはできない。
◆就業後の時間の過ごし方について、会社がサポートする
プライベートな時間は、従業員が自由に過ごすべきだ。会社がそこまで口をはさむ必要はない。それが正論である。
だが日本の会社員は、この正論が通用しないほど、残業に慣れきっており、特に中高年層の男性は「会社以外に居場所がない」という状況に陥っている場合が多々ある。
会社以外に居場所がない従業員は、残業削減策に対して、よくて消極的、最悪の場合は、陰に陽に抵抗し、阻害要因になってしまう。この層には、「早く帰りたくなる」ためのサポートが必要だ。
会社ができるサポートとして、すぐに取りかかれるのは、「情報の提供」だ。
安価に利用できる公営のアスレチック設備やプールがある地域は多い。また、各種セミナーや料理教室なども、無料ないしは実費程度で開催されている。このような情報を集めて、社内メール等で社員に知らせるとよいだろう。
そしてその情報を実際に利用した従業員がいれば、楽しかった感想を集めて周囲へ知らせる、ということまでできれば、さらによい。身近な人から勧められるとその気になりやすいものだ。
また、月に1回程度、数千円を「ノー残業手当」として支給する方法もあるだろう。
渡した以上、その使い方は本人の自由だが、「普段はしないような、ちょっとした楽しみを得るための足しにしてほしい」という会社の要望を付け加えて渡せば、まじめな日本の会社員たちは、自らちょっとした楽しみを見つけようと考えてくれる可能性が高い。
ノー残業手当を渡した翌日、「あれ何に使った?」と従業員同士で話題になり、アイデアを交換するようになれば最高である。
さらに、有志で何らかの趣味のサークルをつくり、ノー残業デーに活動するのもよいだろう。
会社以外の人間関係をつくることも大切だが、仕事が終わったらそのまま集まれるのが、社内人脈のよいところだ。普段、接点のない他部署の人とも親しくなれる、という利点もある。
ノー残業デーとリンクしたこれらの施策を活用することにより、掛け声だけではない、きちんと効果のあがる残業削減に、弾みをつけたいものだ。
プロフィール
メンタルサポートろうむ(http://yhlee.org)代表