<いろどり社会保険労務士事務所 代表 内川真彩美/PSR会員>
企業の「週休3日制」導入のニュースを目にする機会がここ数年で増加してきました。しかし、実際にどのように導入するのか、休日が増えると給与はどうなるのかなど、具体的なイメージがついていない方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、週休3日制をどのように実現するのか、注意点・懸念点などを解説していきます。
週休3日制が登場した背景とは
人口減少と少子高齢化が進む日本では、労働力不足が懸念されています。そんな中で国は、誰もが生きがいを感じてその能力を発揮できる社会や、個人が自由度の高い働き方や暮らしを通じて豊かさや仕事のやりがいを感じられる社会を創っていこうとしています。そのために増やしていこうとしているのが、時間や地域などに制限のある正社員(=「多様な正社員」)です。
何らかの理由により制限付きでの勤務を希望する人を労働市場に復帰・定着させることで労働力を確保し、ワークライフバランスを実現することでやりがいを持って働ける環境を整備しようとしているのです。
「週休3日制」は、この「多様な正社員」実現の1つの施策として紹介されています。休日が増えるため、労働者としてはワークライフバランスの実現などのメリットが、企業としては人材の多様化や優秀な人材の確保定着などのメリットがあり、コロナ禍による社会変容も相まってこの数年で注目されている制度です。
週休3日制というと単純に所定労働日を減らすことをイメージする方もいるかもしれませんが、この制度の実現にはいくつかの方法があります。
週休3日制の実現方法(1)1日の所定労働時間を長くする
この方法は、休日を増やす代わりにその分の労働時間を労働日に上乗せするイメージです。この方法では、週の所定労働時間は変わりませんので、給与の変更等も原則発生しません。
例えば1日の所定労働時間が8時間、完全週休2日制の企業でこの方法を採用した場合、1日の所定労働時間を10時間、週4日勤務とすることで、週休3日を実現します。週の所定労働時間は40時間ですので総労働時間は変わりません。
この方法を採用する場合には、1か月単位の変形労働時間制の手続きをとります。これにより、1日8時間を超える所定労働時間を設定することができます。
この方法のメリットは、労働時間が変わらないので基本給が変わらないという点です。
株式会社マイナビが2023年11月に発表した「週休3日制に関する意識調査(2023年)」では、「週休3日制のイメージ」について聞いた質問に対して、最も多かったものが「収入が減りそう」という回答でした。給与が変わらないまま休日を増やせることは1つのメリットと考えられます。
事実、先ほどの調査でも、週休3日制の利用意向について、約8割の人が「勤務日数が減少しても収入が変わらない」場合に、「利用したい」あるいは「どちらかといえば利用したい」と回答しています。
一方で、残業をせずとも1日の労働時間が8時間を超えるため、休日出勤や時間外労働の管理を徹底する、同時に勤務間インターバル制度を導入する、産業医面談の機会を増やすなど、労働者の労働時間管理や健康確保にはより一層力を入れたいところです。
週休3日制の実現方法(2)1日の所定労働時間は変えず週の所定労働日数を減らす
この方法は、今の働き方のまま週の所定労働日数を減らすイメージです。労働日が減るので、その分基本給が下がるような運用がされることが多いです。
導入は簡単なように見えますが、労働者からすれば元々の労働契約から労働日数と給与が減らされることになるため、労働条件の不利益変更になりかねないという点には注意が必要です。
また、週の所定労働日数が減ると、年次有給休暇が比例付与になったり、社会保険や雇用保険の適用から外れる可能性も否定できません。制度導入時にはきちんと確認しておきたい点です。
先に紹介した週休3日制の利用意向について聞いた質問では、約7割の人が「勤務日数の減少にあわせて収入も減少する」場合、「利用したくない」あるいは「どちらかといえば利用したくない」と回答しています。
このような観点からも、この方法を採用するときには導入前に労働者の意見を収集し、労働者への説明や合意も丁寧に行いましょう。
一方、労働日数を減らしても給与は減らさないという選択をしている企業も存在しています。この方法では労働者の満足度は向上しやすく、全社で生産性向上を考えるきっかけにもなるという声もあります。
週休3日制を導入する際の懸念点として、コミュニケーション不足を挙げる企業が多くあります。導入前には、業務の属人化の解消やコミュニケーション方法の見直しを検討しておきたいものです。
また、コミュニケーション不足の問題は社内だけでなく社外にも当てはまります。担当や仕事の仕方の見直しだけでなく社外に向けても説明を行い、週休3日制導入後も取引先や関与先と変わらずに円滑な業務を行えるようにすることが求められます。
プロフィール
いろどり社会保険労務士事務所(https://www.irodori-sr.com/)代表
特定社会保険労務士 内川 真彩美
成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。