【専門家の知恵】令和5(2023)年の年末調整のポイント<後編>住民税の特別徴収の本人通知書の電子データでの授受が可能に

公開日:2023年11月1日
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<株式会社ブレインコンサルティングオフィス 北條孝枝>

令和5年の年末調整の実務で対応が必要な改正について、前編では、主に、扶養控除等異動申告書に記載する事項(国外居住親族に係る扶養控除の見直し、住民税に関する事項の記載項目の追加)について解説しました。

後編では、令和6年度の住民税の特別徴収の本人通知書の電子データでの授受が可能になることについての改正内容と実務での対応の注意点、住宅ローン控除の適用期限や、控除率、控除期間の見直しについて解説します。

 

令和6年度の住民税の特別徴収の本人通知書の電子データでの授受が可能に

令和5年分の年末調整処理が終了した後に、令和6年1月31日までに、給与支払報告書を市区町村に提出します。その後、毎年5月頃に、個人住民税の6月分からの徴収額が事業主に通知されます。
改正になったのは、この通知の受取方法で、eLTAX経由で給与支払報告書を提出した場合に、納税義務者(従業員)への特別徴収税額通知が電子データを選択することが可能となりました(図1参照)。

<図1>

実際にeLTAXでの操作画面は、図2のようなイメージになります。

②の納税義務者用の受取方法では、「電子データ」か「書面」のどちらかを選択しなければなりません。電子データを選択した場合は、紙の通知書は送付されてきませんので、従業員への配布が電子データではできないのであれば、「書面」を選択することになります。

<図2>

「電子データ」は、eLTAXdで受け取り、ファイルをダウンロードします。ダウンロードファイルは、1つの市区町村につき、1つのZIPファイルとなっています(図3参照)。

ZIPファイルの中には、さらに従業員ごとに暗号化されたZIPファイルが格納されています。このZIPファイルは、AES256暗号化方式となっており(2023年9月28日現在公表されている情報)、Windowsの標準機能では解凍できないため、解凍用のソフトが必要となります。従業員によっては、PCを持っていないケースも考えられ、その場合、この暗号化方式のファイルを開けないことや、セキュリティに問題のある解凍用のソフトを無料でインストールすることで、個人情報の流失等につながるのではと心配する方もいらっしゃるかもしれません。「電子データ」で納税義務者の通知書を受け取るかどうかについて、給与支払報告書を提出するまでに、よく検討しておきましょう。

<図3>

なお、特別徴収義務者用(事業主)への通知書については、改正前も既に、電子データでの受け取りが可能でした。ただし、電子データは副本という扱いで、紙の通知書が正本であるため、電子データと紙の通知書の両方を受け取ることが可能でしたが、令和6年度からは、電子データと紙がそれぞれ正本の扱いとなるため、電子データか紙かのどちらかしか選択できなくなります。こちらについては、給与システムへの取り込みができれば、住民税更新の処理工数を削減できるので、電子データでの受け取りがお勧めです。

住宅ローン控除の適用期限や、控除率、控除期間の見直し

 令和4年以降に新たに住宅を新築した場合の住宅借入金等特別控除の適用期限と控除率、控除期間が見直されました。2050年カーボンニュートラルの実現に向けた措置で、省エネ性能等の高い認定住宅等につき、新築住宅等・既存住宅ともに、借入限度額を上乗せとなります。

・ 住宅ローン控除の適用期限が4年延長(令和7年12月31日までに入居した者が対象)
・会計検査院の指摘への対応として控除率が1%→0.7%
・新築住宅等の控除期が13年に上乗せ
・住宅ローン控除の適用対象者の所得要件が合計所得金額3,000万 円以下→2,000万円以下
・合計所得金額1,000万円以下の者につき、令和5年以前に建築確認を受けた新築住宅の床面積要件が40㎡以上に緩和

実務としては、従業員から提出された申告書に則り、処理をしていけば正しい控除額を計算できるようになっていますので、改正があったことを押さえておけば良いでしょう。

<図4>

終わりに

 前・後編の2回にわたり、令和5年の年末調整の改正点と、実務上の注意点について解説致しました。特に個人住民税の電子データでの受取方法についてが、昨年までと大きく違うことになります。

 従業員の利便性と、配布をする担当者の工数、更には、会社としてのセキュリティ基準(解凍ソフトをインストールすることや、暗号化されたZIPファイルをダウンロードすること)をクリアできるか等を情報システム担当者とも話し合い、検討しておきましょう。

 

プロフィール

社会保険労務士・メンタルヘルス法務主任者  北條 孝枝
株式会社ブレインコンサルティングオフィス(https://www.e-brain.ne.jp/
会計事務所で長年に渡り、給与計算・年末調整業務に従事。また、社会保険労務士として数多くの企業の労務管理、業務改善サポートやメンタルヘルス対策などを通し、現場に即したアドバイス、従業員のモチベーションを高める組織づくりに取り組んでいる。
また、蓄積された実務ノウハウをもとに、改正育児介護休業法に対応した「育児休業実務安心パック®」など、多くの商品開発も手掛けている。

 

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