<ごとう人事労務事務所 後藤和之/PSR会員>
ハラスメントの中でも特に多い「パワハラ」。特に管理者から部下に対するものが多いと思います。管理者が適切に指導したと思っても、部下がそれをパワハラと受け取ってしまうケースも考えられ、管理者の方は指導へのためらいを感じることもあるのではないでしょうか。今回は、パワハラを起こすリスクが高い行動パターンを考え、部下へ指導する上での留意すべき点を確認していきます。
◆パワハラを起こすリスクが高い行動パターンは「指導」と「解決」が混同している時
パワハラの加害者とならないために大切なことは「指導」と「解決」の関係性と考えます。
まず「広辞苑(第7版)」では、以下のように明記されています。
「指導」 目的に向かって教えみちびくこと
「解決」 問題やもつれた事件などを、うまく処理すること。また、事件が片づくこと。
次に「指導」と「解決」に関する3つの行動パターンを考えてみます。
具体例として、遅刻が多い部下を想定してください。
~行動パターン①~「指導」をした上で「解決」へつなげる
この行動パターンが身につけば、パワハラを起こすリスクは格段に低くなると思います。
まず「出社時刻は8時30分です。必ずそれまでに出社してください」とはっきりと指導し、その後、問題の解決へとつなげます。
残業が多いようでしたら「仕事は気にせず早く帰ろう」、また真面目過ぎる性格であれば「失敗しても気にするな」など、さまざまな事実が遅刻と因果関係があるかは明確でなくても、部下が自らの問題を自身の力で解決できるようにサポートする姿勢に切り替えるということです。
~行動パターン②~「指導」を行わず「解決」へつなげる
遅刻をする部下に対し、遅刻をした事実には触れず「仕事は気にせず早く帰ろう」など、原因となる事実(この場合は、遅刻の理由は残業が多いこと)にある程度の目途を立て、それに見合った言動をすることです。
部下のプライドを尊重する時・繊細な気持ちを持つ部下に対する時などは効果的かもしれません。しかし、部下が本来の意図に気づくことができるかということ。さらには、肝心となる事実(遅刻をした事実)に触れないことが、周りの人たちの納得感を得られにくいなどのデメリットがあります。
~行動パターン③~「指導」と「解決」が混同している
これが最もパワハラを起こすリスクが高い行動パターンと考えます。
部下が同じミスを繰り返したときなどに、管理者が同じ指導を繰り返したり、より厳しく指導したりすることで、問題が解決できると考えているパターンです。例えば「また遅刻をするなんて、気が緩んでいるのでは?」などと言うことです。
もちろん指導を繰り返すなどにより、問題が解決することもあると思います。
しかし、問題となっている本当の原因(遅刻の原因)は分からないことが多いです。もし部下が「睡眠障害を抱えている」「家庭の事情で、朝の出社が遅れる」などの悩みを一人で抱え込んでいたら、それは気が緩んでいるのではありません。
つまり確証がない中で、同じ指導を繰り返す、必要以上に厳しい指導をすることはリスクが高く、部下が不快な思いを抱くようなパワハラにつながりやすいということです。
◆部下が自ら問題を解決できる『環境』をつくっていこう!
部下を指導する時に、基本的なことを教えるだけでなく、併せて「管理者の考え」「管理者が考える解決方法」などを伝えてしまいがちですが、それは最低限に留めましょう。
なぜなら、管理者の考え・管理者が考える解決方法が、部下にとって最善のものであるとは限らないからです。問題を組織として解決する場合などを除けば、問題を主として解決するのは部下であり、最終的にその解決方法は部下自身が考えていくものです。
あくまで管理者が主とすべきは、部下が「解決」できるように教えみちびくことです。
そして、管理者として部下の「解決」をサポートできることは、部下が自らの問題を自身の力で解決できるような『環境』をつくることです。
部下が、どのような時に能力を発揮し、問題を解決することができるのか。仕事の一つひとつの場面に寄り添いながら俯瞰的に考えていきましょう。「年齢が近い従業員から指導する」「大きな仕事を任せる」「定期的な面談を行う」などのさまざまな方法を通じて、部下が最大限に能力を発揮できる『環境』を目指しましょう。
部下への「指導」は必要不可欠ですが、そこだけに固執してしまうとパワハラの加害者となるリスクが高くなります。
そのためには「指導」と「解決」を分けて考えることが大切です。
そして、「解決」のために『環境』をつくることに重点を置けば、部下への「指導」が必要最低限のものとなり、パワハラにつながるリスクは低くなると思います。
ただし留意すべきは、管理者のパワハラを回避することが本来の目的ではありません。それが主たる目的となれば、周りの従業員に過度の負担が生まれ、従業員同士がパワハラに陥ることにもなりかねません。
繰り返しとなりますが、管理者が、部下が自らの問題を自身の力で解決できるような『環境』をつくることが本来の目的です。
さらには、従業員一人ひとりが能力を発揮できるそれぞれの『環境』をつくることで、『誰もが最大限に能力を発揮できる職場環境』をつくることが管理者としての大きな役割です。
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