少子高齢化時代における副業・兼業制度導入のメリットと今後の展望
<社会保険労務士法人出口事務所 出口和宏/PSR会員>
厚生労働省のプレスリリースによると、2021年9月1日現在の100歳以上の高齢者の数は86,510人とこれまでで最も多くなったことがわかりました。一方、総務省統計局より発表された2021年4月1日現在の15歳未満のこどもの数は1493万人で、40年連続の減少と過去最少になりました。これにより15歳未満のこどもの割合は11.9%とこちらも過去最低となり、47年連続の低下となりました。少子高齢化により労働力人口の減少が危惧されますが、今回は対応策の一つとして今注目の副業・兼業制度について考えてみたいと思います。
〈参考〉厚生労働省 百歳高齢者表彰の対象者
https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/000672203.pdf
〈参考〉総務省統計局 我が国のこどもの数
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/topics/topi1280.html
2019年と2020年の売上高の比較
日本は今、昨年からの新型コロナウイルス感染症拡大の影響で多くの会社が売上高の変動に苦慮しています。統計によると2020年の売上高が前年より減少した会社は約75%です。これらの会社では程度の差こそあれ、仕事量が減ったことで仕事を持て余した従業員の雇用をいかにして維持すべきか、努力を重ねているのではないでしょうか。一方、残りの約25%の会社では、前年よりも売上高が増え、逆にこちらは人手不足に悩んでいる可能性もあります。
〈参考〉中小企業庁「2021年版中小企業白書」中小企業の財務基盤と感染症の影響を踏まえた経営戦略 P.Ⅱ-24
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf
副業を希望している雇用者数の推移
日本では、かつて正社員雇用においての慣行の一つに終身雇用制度があり、副業や兼業を認めない文化がありました。その後、終身雇用制度が陰りを見せ、限られた人材と人件費で効率的に会社を運営しようという会社が増えたことから、成果主義制度に移行する会社が増えてきたのではないでしょうか。そのような経緯から、将来の雇用の不安定さとそれに伴う貯蓄の財源の懸念、加えてコロナ禍により製造業や飲食業を中心に労働時間の削減傾向がみられることから、削減部分を副業や兼業で賄おうと考える方が増えているようです。
厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説P.21
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000695150.pdf
副業・兼業を行うメリットと注意点
「わが社でも副業・兼業制度の導入を検討してみようか」との考えには至ったものの、実際に副業・兼業制度を導入するに当たり、どのような点に気を付ければよいでしょうか。
副業・兼業を禁止している会社や一律許可制にしている会社は、まずは原則副業・兼業を認める方向で就業規則などの見直しを行い、労働者が副業・兼業を行える環境を整えましょう。その上で、労働者が権利に基づき副業・兼業の内容を会社と共有できる準備を整えます。
具体的には、以下のような届け出を労働者から提出してもらうことになります。
①副業・兼業の形態
②副業・兼業を行う事業所の名称・所在地
③事業所の業務内容・従事する事業内容
④労働契約の内容
⑤所定労働時間等
なお、①労務提供上の支障がある場合、②企業秘密が漏洩する場合、③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合、④競業により、企業の利益を害する場合には、会社が副業・兼業の実施を禁止又は制限することも可能です。
以下に副業・兼業を行うメリットと注意点をまとめてみます。
【副業・兼業を行うメリット】
【副業・兼業を行う上での注意点】
人生100年といわれる時代、年金をもらえる年齢になっても残り35年近く自由な時間が残ります。健康で働くことが可能な時期は、興味のある仕事を無理のない範囲で行って、心身および金銭的にも豊かな生活を送りたいものです。若いうちから様々な可能性を探りながら最終的に自らが納得できる働き方の選択肢を増やしておくことはこれからの時代に必要なことであり、それができる環境を作ってあげることも企業にとっての福利厚生の一つになるのではないでしょうか。
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