家族信託は欧米で盛んに活用されてきた制度ですが、ここ日本でも活用を検討される方が確実に増えてきています。 本稿では、家族信託についてみていきます。
家族信託とは
信託契約により、委託者(注1)が保有する財産を受託者(注2)に託し、受託者が受益者(注3)のために財産の管理 ・処分を行う制度です。
このように委託者が財産の管理を受託者に任せ、その財産を受託者が管理し、その財産から生じた利益を受益者が得る仕組みのため、多くの場合、親のために子が財産を管理し、財産から得られる利益は所有者である親が受け取るケースが多いようです。
例えば、親(委託者)の所有する不動産の管理・運用を子(受託者)に頼み、不動産から得られる利益は親(受益者)が受け取る、というものです。
家族信託では、親のために子が財産を管理して利益は所有者である親が得る、委託者と受益者が同じ人(自益信託)になることがほとんどです。
(注1)「委託者」とは、財産の所有者で、財産を信託する人
(注2)「受託者」とは、財産の管理運用処分を任される人
(注3)「受益者」とは、財産権を持ち、その財産から利益を得る人
家族信託のメリット
1.遺言としての利用
家族信託は、遺言書としての役割を果たします。家族信託により、お元気な時に委託者(親)が受益者(子)を指定するなどすれば、遺言と変わらぬ役割を持たせることになります。
2.将来にわたる相続の指定が可能
家族信託では、財産の移転先を詳細に指定しておくことができます。そのため、遺言書では不可能な二次相続以降の財産相続についても相続の指定をすることができるのです。
具体的には、委託者が第1受益者、第2受益者さらに第3受益者を指定すると、第1受益者が死亡すると第2受益者へと受益権が継承され、さらに第2受益者が死亡すると第3受益者へと受益権が移転していくことになるのです。
家族信託の税務
1.受益者と所得税
受益者が信託財産の運用から得る利益に対しては、所得税が課税されます。例えば賃貸不動産を信託不動産にした場合なら、受託者が管理運用を行い、受益者が不動産収入(所得)を得るので所得税が課されるのです。
なお、不動産所得の扱いで注意すべき非常に重要な点が一つあります。それは不動産所得が大規模な修繕などで赤字となった場合に、その赤字はなかったものとみなされて他の所得との損益通算はできないという点です。また、その赤字を翌年以降へ繰越すこともできないのです。とても大きな納税負担につながるリスクがあるので気をつけてください。
2.受益者には贈与税課税
家族信託では、受益者が財産の実質的所有者となります。信託された財産から生じた利益を受益者が受取るためです。よって、財産の所有者である委託者と受益者が異なれば贈与税が課税されます。
3.登録免許税
不動産を信託財産にした場合、所有権移転登記が必要となるため、登録免許税の負担が生じます。ただし、不動産取得税は課税しないとされています。
最後に、受託者は財産の管理運用を行う権利があるため、信託財産を私利私欲のために使う可能性もゼロとは言えないのが現実です。「信託監督人」や「受益者代理人」を選任をすることで、受託者の不正を防止する一定の効果を期待できます。
以上
プロフィール
税理士 田中利征
税理士、経営財務コンサルタント/田中税務会計事務所長/企業家サポートセンター 代表/戸田市経営アドバイザー