<酒井世津子社会保険労務士事務所 酒井世津子/PSR会員>
是正勧告とは、企業側に労働基準法・最低賃金法・労働安全衛生法等の法令違反が認められた際に、指定された是正期日までに違反事項を改善する様、労働基準監督署から「是正勧告書」という書面で指摘されることを言います。違反内容と、それらを是正して監督署に報告する期日等が記載されています。「勧告を無視」「期日までに是正されない状況が繰り返される」「内容が悪質と判断された場合」等は送検されるリスクもあり、企業側は大きな打撃を受けます。
今回は、是正勧告を受けた場合の対応について解説します。
労働基準監督署から調査の連絡。どんな準備や対応が必要?
普段から法令が遵守されており、違反の事実はなく、適正な労務管理が行われていれば、労働基準監督署の調査が入っても動揺する必要はありません。
調査の目的は、
① 「労働基準法や安全衛生法など労働法令違反の確認」
② 「違反があった際には、是正勧告の対象として、企業側の法令違反を是正していくこと」
が挙げられます。
調査には、以下の3つがあります。
① 定期監督(日時について連絡があるケースと、突然やって来るケースの臨検があります)
② 従業員が監督署に相談に行った際に、企業側の法令違反が発覚するなどの理由で行われる申告監督(この場合、当該従業員の氏名等は伏せられます)
③ 労災事故が発生し、安全衛生法違反等が発覚した場合の災害時監督
また、上記の調査によって是正勧告となり、数回の期日までに改善されなかった場合に、再度の調査が入る「再監督」のケースもありますが、違反内容によっては、再監督に至らず書類送検される可能性がある為、是正勧告を受けてしまった場合は、企業側には迅速で真摯な対応が強く求められます。
監督署は、調査で労働基準法・安全衛生法・最低賃金法などの労働法令に関連する違反の有無を確認し、法令に違反している内容を、労働基準監督官が指導票や是正勧告書で指摘します。
ここで簡単に「労働基準監督官」について説明します。
労働基準監督官は、「労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、じん肺法、家内労働法、賃金の支払の確保等に関する法律」などの法律を取り扱っている国家公務員であり、また、特別司法警察職員として、様々な権限を持っています。
① 「適正な調査を行うため、予告なく事業場に立ち入ることが可能」
② 「調査のため、事業場の帳簿書類を確認したり、従業員などに尋問したりすることが可能」
そして、労働基準法第120条の規定により、監督官の立ち入りや調査自体を拒んだり、虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類の提出など、妨げる行為があった際には、労働基準法により処罰されることがあります。
突然の調査が入ったら、驚いて慌ててしまうことが多いと思いますが、真摯に対応することがとても重要です。
指導票や是正勧告書が提示された際には、法令違反項目の内容を確認し、どの様に改善するべきか不明点がある場合は、担当の監督官に質問しましょう。是正期日までに、どの様に対処するべきか等を教えて貰えますので、指示に従って是正していく様に努める必要があります。
是正勧告で多い法令違反は何?対応は?そして絶対にしてはいけないことは?
私の実務経験からの見解になりますが、是正勧告で指摘が多い違反項目は、
① 出勤簿やタイムカードの不備等があり、労働時間の管理が適正に行われていない。
② 未払いの残業代がある。
③ 割増賃金の計算方法に誤りがあり、正しい金額で支払われていない。
④ 36協定の届け出がないまま、時間外労働をさせている。或いは、36協定の記載と実態が一致していない等、届け出た内容が不正確で法令違反が認められる。
⑤ 法定3帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)の不備
このほか安全衛生法違反もありますが、全体的に労働時間と賃金に関連する内容が多い様に実感しています。
未払い賃金が多大にある場合、例えば、全従業員分を数ヶ月、または過去数年分に遡って支払わなければならない際などでは、莫大な金額となることがあります。労働者との信頼関係の問題だけでなく、経営の面からも未払い賃金のない労務管理を強くお勧めします。
次に、是正勧告の対応で、「絶対にしてはいけない事」を強調しておきます。
労働基準監督署から是正勧告書を交付された際、「指摘の内容が多く、どのように改善して良いか分からない」「是正内容の改善が、期日までに間に合いそうにない」など慌てるケースが多いと思います。
特に、「顧問社労士や総務人事担当者がいない」という場合は、具体的な改善方法が分からない上に、是正報告書の作成時間もない等から、戸惑うことが多いと思われますが、労働基準監督署の対応を無視することは、絶対に辞めておきましょう。
法令違反の指摘をされた場合には、その内容には真摯に向き合い、法令違反の事実を改善することが重要です。指定された期日までに「是正報告書」のほか、労働基準監督署から提出を求められた書類一式を準備し、法令違反を改善した状況を報告する必要があります。期日に間に合わない際には、日程の調整をお願いしてみましょう。
突然の調査で困らないためには、普段から適正な労務管理を行う必要があります。
労務管理面において、
「労働時間の適切な管理を行う事」
「時間外労働の割増賃金は正しく計算して支払う事」
「36協定や労使協定を届け出る事」
「法定3帳簿や、労働条件通知書を適正に作成し、取り扱いや管理に留意すること」
「労働基準法のほか、労働安全衛生法、最低賃金法など、労働法令全般に抵触しない労務管理を行う事」
これらを万全にしていれば、労働基準監督署から何らかの調査の際に慌てる必要はありませんが、労務管理がきちんと行われていないと、労働基準監督署から受けた急な是正勧告の対応に困難を極めることは明らかです。
法令遵守を遵守することは、労働者の権利を守ることに繋がり、そして企業を守ることに繋がっていきます。
そして組織が健全化されることから、経営の安定に繋がっていきますので、是正勧告を受けないためにも、日々の労務管理面を見直して、職場環境を整備されることをお勧めします。
是正勧告を早期に解決し、その後の労務管理の指針として、本文がご参考になれば幸いです。
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