<コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬/PSR会員>
中高齢者が転職をし、中途採用者として新しい職場の一員になるケースは少なくない。ところが、新しい職場での中高齢者の言動が問題視されることもあるようである。そこで今回は、「中高齢の中途採用者が起こしがちな職場トラブル」について、2022年10月の「社会保険加入に関する法改正」の内容も交えながら整理をしてみよう。
トラブルメーカーになることがある中高齢の中途採用者
「中高齢者を中途で採用したところ、職場でトラブルが起き始めた」という話を耳にすることは、決して少なくない。転職してきた中高齢者に不適切な言動が散見され、職場のトラブルメーカーになっているというのである。
中高齢者を中途で採用した場合の職場トラブルは、「仕事の進め方」「コミュニケーションのとり方」などに現れやすい傾向にある。「仕事の進め方」については、次のような問題が発生することがあるようである。
・採用直後から、新しい職場の業務の進め方に異議を唱える。
・新しい職場の業務ルールを守らず、勝手に変更する。
・前職での業務の進め方を他の社員に押し付ける。
また、「コミュニケーションのとり方」では、次のような事例が見られることがある。
・自分よりも年下の上司・先輩の指示に素直に従わない。
・男性社員の指示には従うが、女性社員の指示には素直に従わない。
・年下の上司・先輩に対し、丁寧な言葉遣いで話せない。
・一般社員として採用されたのに、他の一般社員に対して上司のように振る舞う。
結果として、業務遂行に悪影響が出るのは元より職場の雰囲気が悪化し、既存社員が退職してしまうケースさえあるようである。
仕事が始まってみなければ分からない「職場での本当の姿」
トラブルを起こしやすい中高齢者を、採用面接の段階で判別するのは容易ではない。一定の社会経験があるためか、面接はそつなくこなしてしまうケースも少なくないようである。
ところが、実務に入ると、前述の不適切な言動は比較的早い段階で現れる傾向にある。面接でどんなに取り繕っていても、ひとたび仕事を始めれば、今までの職業経験で染み付いた「仕事やコミュニケーションの癖」は隠すことができないからである。中高齢の採用者の「職場での本当の姿」は、仕事が始まってみなければ分からないのが現実と言えよう。
このような問題に対処するには、中高齢の採用者が実務を開始した後、早い段階から職場の他のメンバーにヒアリングを行い、現状確認を欠かさないことが大切である。その結果、問題が発見されたのであれば中高齢の採用者との面談を迅速に行い、不適切な言動を改めるように指導する必要がある。
ただし、中高齢者の場合には、自身の問題点を第三者から指摘されても、その後に改善に至るケースは必ずしも多いとは言えない。若年の中途採用者とは異なり、長年の職業経験で培われた行動特性は変えるのが困難だからである。
そのため、採用当初の雇用契約を短期間に設定し、万一、自社にとって好ましい人材とは言えず、改善も困難と判断した場合には、雇用契約を更新しないことにより「他の社員や職場を守る」ことも考えなければならないであろう。
2022年10月からは「2カ月以内の雇用契約」でも社会保険加入が必要に
これまで、新規採用者の雇用契約が2カ月以内の場合には、原則として厚生年金と健康保険の加入対象にならなかった。その後、契約を更新した場合には、更新した時点から加入する。
そのため、中高齢の採用者についても、採用当初は2カ月以内の雇用契約を締結し、問題のない人材と分かれば契約を更新して、更新時点から社会保険に加入させるという方法を採用していた企業もあるだろう。
この方法であれば、好ましくない人材との雇用契約は最長でも2カ月になり、職場への悪影響が限定的となる。加えて、そのような人材のための社会保険料支出も回避できるからである。
ところが、2022年10月からは、法改正によりこのような手段が利用できなくなった。雇用契約が2カ月以内であっても、その契約期間を超えて雇うことが見込まれる場合には、採用直後から社会保険に加入することが義務化されたためである。
例えば、当初の雇用契約書に「契約が更新される場合がある」などの記載があるケースや、同様の雇用契約に基づく採用者の契約更新実績がある場合には、企業と採用者との間に「契約を更新しない」という合意がない限り、採用時点から社会保険に加入させなければならない。その結果、「問題のない人材と分かってから社会保険に加入させる」という方法が採れなくなるのである。
この法改正を見落とし、従前どおり採用当初は2カ月以内の雇用契約を締結し、その間は社会保険に加入させないとの取り扱いを行っていると、年金事務所の事業所調査などにより指導を受け、過去に遡って保険料納付を求められることもあるので、十分に注意が必要である。
中高齢の中途採用者が、トラブルを起こす人材ばかりでないことは言うまでもない。長年培った経験・技術をトラブルなく思う存分に発揮し、新しい職場に不可欠な人材となる中高齢の採用者も多数存在している。好ましい中高齢人材が長く活躍できる職場となるよう、法改正への対応は怠らないようにしたい。
プロフィール
コンサルティングハウス プライオ (https://www.ch-plyo.net)代表 大須賀信敬
中小企業の経営支援団体にて各種マネジメント業務に従事した後、組織運営及び人的資源管理のコンサルティングを行う中小企業診断士・社会保険労務士事務所「コンサルティングハウス プライオ」を設立。『気持ちよく働ける活性化された組織づくり』(Create the Activated Organization)に貢献することを事業理念とし、組織人事コンサルタントとして大手企業から小規模企業までさまざまな企業・組織の「ヒトにかかわる経営課題解決」に取り組んでいる。一般社団法人東京都中小企業診断士協会及び千葉県社会保険労務士会会員。