【専門家の知恵】なぜ、上司と部下のコミュニケーションが少なくなってしまうのか?パワハラ防止の視点から、コミュニケーションを促進するためのポイントは

公開日:2022年2月25日

<後藤和之 ごとう人事労務事務所/PSR会員>

 

 令和2年度に実施された厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査」の中で、質問「あなたが働いている職場の特徴として当てはまるもの」について、パワハラを受けた者が最も多かった回答は『上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない(37.3%)』でした。なぜ、コミュニケーションが少なくなってしまうのかを、今回はアメリカの心理学者マズローの「欲求5段階説」から考えてみたいと思います。

 

パワハラ防止は、従業員の「安全の欲求」を満たすもの  

  マズローは人の欲求を、以下の5つの階層があるとしています。

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  マズローは、人の欲求はピラミッド状に5段階に分かれ、下層にある低次の欲求が満たされることで、より高次の欲求に向かっていくとしています。

 パワハラ防止は「安全・安定の欲求(以下、安全の欲求)」を満たすことが目的と言えるでしょう。誰もが「安全の欲求」を満たすことで、より高次の欲求へとつながり、自分らしい人生を歩むこと、さらにはモチベーションを高めることで会社の生産性・効率性を高めることにもつながっていきます。

「安全の欲求」の内容により、高次の欲求も違ってくる
 しかし「パワハラがない職場環境」という安全な欲求を全員が欲していても、「パワハラ」が起こってしまうのが事実です。それはなぜでしょうか。
 その要因として、「パワハラがない職場環境」というような共通の安全な欲求だけでなく、一人ひとりそれぞれの「安全な欲求」を持っているからだと考えます。

 仮に、安全な欲求が「会社が生涯にわたって生活を保障」であるAさん、安全な欲求が「ストレスが少ない人間関係」であるBさんの2人がいたとします。
 そして、各段階の欲求に次のような違いが出たとします。

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 パワハラの加害者となりやすいのは、自らの「安全の欲求」に固執している時

 例えば、上司がAさん、部下がBさんとします。
 上司のAさんは親心から、部下のBさんに対し『会社への帰属意識を高めたいと思い、親密な関係をつくろうとする』『定年まで働くことができるように、より厳しく叱咤激励する』などの行動を取るかもしれません。
 AさんがBさんに仕事をする上での指導は必要不可欠ですが、Bさんにとってみれば自らの欲求から離れたAさんの帰属意識・叱咤激励などの指導はあまり効果がないかもしれません。仮にBさんの年齢が若ければ、少子高齢化が進む中で、会社が生涯にわたって生活を保障するという安全な欲求を、Aさんと同じレベルで持つことが難しいと感じることは不思議なことではありません。
  しかしそれをAさんが理解していないと「効果を得るために行動の強度を上げる」⇒「コミュニケーションが嚙み合わない」⇒「コミュニケーションが少なくなる」⇒「パワハラにつながるリスクが高くなる」という悪循環につながります。
  大事なことは、パワハラを避ける要因として「安全の欲求」が自らとは違うことを早い段階で意識し、自らの「安全の欲求」に固執しないことです。

 

パワハラ防止に向け、コミュニケーションを促進するための3つのポイント! 

~ポイント1~「互いの高次の欲求を尊重すること」それが、結果として会社の生産性を高める!
 ひと昔前であれば、会社にはAさんのような人たちが多く、一致団結することで会社の生産性を高めることができたかもしれませんが、現在は必ずしもそうではありません。
 まず大事なことは、自らの「欲求」を知り、それを部下に押し付けないことです。階層別研修等で上司が自らの人生を顧みる機会をつくるとともに、外部研修等でいろいろな会社の実践例を知る機会をつくることで、今の時代に必要とされる職場環境を上司が理解することが大切です。

~ポイント2~部下の「自己実現の欲求」を知ること、そして寄り添うこと!
 日々の忙しさに追われると、部下とのコミュニケーションが希薄になっていくこともやむを得ないことかもしれません。だからこそ、要所で行われる面談・研修などの機会を大事にしていきましょう。
   面談の中で、部下が目指す将来像を知ることで、部下が大事にしていることも知ることができます。また、部下が参加するOFF-JTなどの様子を知ることで、部下の新たな一面が垣間見えることもあるかもしれません。そのような一つひとつの積み重ねが、部下の「自己実現の欲求」に寄り添うことにつながっていきます。

~ポイント3~上司が「待つこと」も必要!
 一方で、上司から積極的にコミュニケーションを取ることが必ずしも良いとは限りません。踏み込み過ぎることで、それがパワハラの要因になることもあるからです。上司がコミュニケーションを主導するだけではなく、時には「待つこと」も必要です。
 上司としての責任感が強すぎると積極的に動いてしまいがちですが、大事なことは「部下は、上司の姿を常に見ている」という心構えです。日常の仕事ぶりだけでなく、場面における感情や立ち振る舞い、従業員への気配りなど、部下は上司の細かい部分をしっかりと見ているものです。
   上司は、そのような心構えを常に意識し、自らを高めていく姿勢を見せ続けることが大切です。部下は、上司の姿を見ることで自ずと「上司へ相談したい!」と思うことにもつながっていきます。そのような関係が構築できれば、部下は上司とコミュニケーションを図ることに安心感が生まれ、「パワハラがない職場環境」へと近づいていきます。

  

プロフィール

ごとう人事労務事務所(https://gtjrj-hp.com
社会福祉士・社会保険労務士 後藤和之
昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの様々な業務に携わり、特に福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。現在は厚生労働省委託事業による中小企業の労務管理に関する相談・改善策提案などを中心に活動している。

 

 

 

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