【専門家の知恵】ハラスメント「被害者」「加害者」に対する事業主が講ずべき措置の内容とは?押さえておきたい‘’ポイント‘’も解説

公開日:2022年10月24日

<ごとう人事労務事務所 後藤和之/PSR会員> 

 

 厚生労働省指針では、パワハラなどのハラスメントに関する事業主が雇用管理上講ずべき措置の中で「被害者に対する適正な配慮の措置の実施」「行為者に対する適正な措置の実施」を示しています。今回は、指針に示されている措置の内容を確認するだけでなく、これらの措置を通じて「従業員誰もが働きやすい職場環境」を目指すために押さえておきたい‘’ポイント‘’も併せて解説します。  

 

ハラスメント「被害者」への適正な配慮の措置の‘’ポイント‘’ 

●厚生労働省指針で示す「被害者」への適正な配慮の措置
 まずは、厚生労働省指針の内容を確認します。
 事案の内容や状況に応じ、以下のような取組例を示しています。

・被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助
・被害者と行為者を引き離すための配置転換
・行為者の謝罪
・被害者の労働条件上の不利益の回復
・管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応
・調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置  など

~ポイント①~「被害者の気持ち」に寄り添う

 ハラスメントの被害状況に応じた、会社の行為者への指導・懲戒処分などが、必ずしも被害者にとって納得いくものになるとも限りません。事実関係を正確に確認した結果、被害者が「行為者への処分が軽すぎる」などと思うこともあるかもしれません。だからといって会社が一度下した判断を容易に変更することはできません。
 しかし、被害者がモヤモヤした気持ちを抱え、仕事へのモチベーションが低下すれば、会社の生産性にも大きな影響を及ぼすことにもなります。被害者は、ハラスメント被害を相談するために勇気をふり絞り、解決の過程においても不安な気持ちを抱えるものです。そのような苦労を経験した被害者の気持ちに寄り添い、被害者自身が新たに前へ進むために、職場の同僚やハラスメントの処分決定に関わらなかった相談窓口担当者などのサポートが大切になります。

~ポイント②~「被害者の職場環境」を注視する

 行為者が被害者に対してのみハラスメントをしていたのであれば、他の従業員にはまったく関係がないこともあります。その場合、他の従業員にとってみれば「行為者はとても良い人だったのに」「被害者にも問題があるはず」などの思いを抱くことも考えられ、新たな問題に発展する怖れがあります。
 被害者と行為者を引き離すための配置転換などの措置により「一件落着!」などと楽観視せず、解決後も被害者の職場環境を注意深く見守っていきましょう。新たな問題に発展するか否かは、被害者が所属する部署の管理者のマネジメントにかかる負担がとても大きいです。所属部署管理者にすべてを任せるのではなく、総務人事部署などと連携をとり、会社として常に現状を把握しておきましょう。  

 

ハラスメント「行為者」への適正な措置の‘’ポイント‘’ 

●厚生労働省指針で示す「行為者」への適正な措置
先ほどと同じく、厚生労働省指針で示す取組例を確認します。

・就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるハラスメントに関する規定等に
 基づき、行為者に対して「必要な懲戒その他の措置」を講ずる
・事案の内容や状況に応じ「被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助」「被害者と行為者を引き離すための配置転換」「行為者の謝罪」等の措置を講ずる
・調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置  など

~ポイント③~「行為者の仕事へのモチベーション」を高める

 ハラスメントの事実があれば、行為者は会社の懲戒処分などを受け、深く反省をしなければなりません。
一方で必要な処分を受けたのであれば、それをいつまでも引きずることでモチベーションを低下させるのでなく、1人の従業員として全力で仕事へ取り組む責任があります。
 行為者がハラスメントを二度と起こさないよう最大限に留意する中で、どのような仕事・配置であれば行為者がその能力を発揮することができるのかも併せて検討していきましょう。

~ポイント④~「行為者自身が問題解決すること」を支える

 行為者の中には、ハラスメント行為を克服できない場合も考えられます。
 例えば、全力で仕事に取り組むことでストレスが溜まり、そのストレスを解消する方法を身に着けていないため、無意識に周りの従業員へ強く当たってしまう。他には、何が悪かったのかを行為者が十分に理解できないままに、また同じハラスメントを繰り返してしまうなどです。
 行為者ですので全面的に援助をする対象ではありませんが、行為者が克服できないのであれば、会社としても大きな不利益になります。行為者自身が新たに前へ進むためにも、産業保健スタッフなどの専門家の協力を得ながら、会社として「行為者自身が問題解決すること」を支えましょう。

~ポイント⑤~「行為者とともに働く従業員」をフォローする

 ポイント③④の内容は、行為者のためだけではなく、何より「行為者とともに働く従業員」のためでもあります。行為者1人だけで行うような仕事でなければ、誰かが行為者と働くことになります。会社が必要な配慮をしなければ、一緒に働く従業員は大きな不安を感じ、行為者も周りの従業員の目を過剰に気にするといった悪循環が生まれます。
 行為者が所属する部署の管理者は、行為者への指導だけでなく、面談などの場面を通じて従業員の不安な気持ちに寄り添うことで「一人ひとりが働きやすい職場環境」をつくっていきましょう。そして、総務人事などのハラスメント担当部署も、被害者・行為者への措置に留まるのではなく「従業員誰もが働きやすい職場環境」をつくるために必要な取り組みを考えていきましょう。

 

プロフィール

 ごとう人事労務事務所(https://gtjrj-hp.com) 
 社会福祉士・特定社会保険労務士 後藤和之

 昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。
 約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの業務に携わるとともに、福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。
 特定社会保険労務士として、人事労務に関する中小企業へのコンサルタントだけでなく、研修講師・執筆など幅広い活動を通じて、“誰もが働きやすい職場環境”を広げるための事業を展開している。

 

 

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