<三谷社会保険労務士事務所 三谷 文夫/PSR会員>
現在、政府による異次元の少子化対策の中で育児に関する話題が世間を賑わせています。一方で、国民の高齢化が進み、労働者の介護離職者数も年間10万人程度で推移している状況の中、介護への関心も今後高まるところです。そこで、今回は企業における介護支援として、介護休業に触れた上で、介護と仕事の両立支援のポイントについて解説します。
介護休業とは
介護休業とは、労働者が要介護状態(負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族を介護するための休業です。
対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できます。3回まで分割して取得できるのが特徴のため、30日、32日、31日といった取得が可能です。
対象となる労働者は、対象家族を介護する男女の労働者です。
ただし、有期雇用者の場合には、取得予定日から起算して、93日を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないことが要件となります。
また、労使協定を締結している場合には、次の者は対象外となります。
- 入社1年未満の者
- 申し出の日から93日以内に雇用期間が終了する者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の者
あくまで労使協定の締結が前提のため、上記の者を対象外とする場合には労使協定の締結を忘れないようにしてください。なお、この労使協定は労基署等への届出は不要です。自社で保管して下さい。
要介護状態とは
従業員からよくある質問として、「要介護状態とは具体的にどういう状態でしょうか」というのがあります。人事労務担当者であれば一度はこのような場面に出会ったことがあるのではないでしょうか。
育児介護休業法で定める要介護状態とは、「負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり、常時介護を必要とする状態」をいいます。そのため、介護休業は、介護保険制度の要介護・要支援認定を受けていない場合でも利用できます。
また、「常時介護を必要とする状態」の判断基準は、こちらの厚生労働省のホームページに掲載されています。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000145708.pdf
従業員から要介護状態についての質問があった場合には、こちらの判断基準を参考に説明すると分かりやすいでしょう。
介護離職を防ぐための両立支援のポイント
総務省「就業構造基本調査」によると、いわゆる介護離職者は年間10万人程度で横ばい状態です。貴重な人材の離職を防ぐためにも、介護と仕事の両立支援が企業に求められるところですが、育児休業等の育児支援に比べて、介護休業等は意外と従業員に知られていない場合もあります。
そこで、まずは、自社の従業員の介護の実態調査を行うところから始めてみましょう。厚生労働省が作成しているアンケート調査票(※)を利用すると約10分程度で回答できるので従業員の負担もそれほどありません。
※厚生労働省ホームページからダウンロードできます。
ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 雇用・労働 > 雇用均等 > 仕事と介護の両立 > 仕事と介護の両立支援
実態把握するとともに、企業としては、介護支援体制を周知することが大切です。「育児だけでなく介護にも休業制度があるとは知らなかった」という声もよく聞くところです。
社内勉強会を行う、実際の介護休業取得者の体験談を社内報で発信する等、積極的に介護と仕事を両立する方法があることを周知しましょう。
介護休業中の経済的な支援として、雇用保険から93日を限度に介護休業給付金が支給されます。金額は休業前の月額賃金の67%です。このような経済的支援や介護保険サービスについての説明も加えると、従業員に安心感を与え離職を思いとどませる効果も期待できます。
ハラスメント教育で職場風土も少しずつ変えていく
介護休業の取得に関して、取得することを妨害したり、嫌がらせを行うことはハラスメントに該当します。例えば、介護休業を取らないようにすすめたり、介護休業を取得した従業員を降格したりする等です。
そのため、このような行為がハラスメントに該当することを研修等を通じて管理職や従業員に伝えておくことも大切です。
介護にかかるハラスメントは、制度についての不知、制度利用や請求をしにくい職場風土が背景にあります。すぐに職場風土を変えることは難しいですが、ハラスメント教育や制度の周知を通じて啓蒙することにより、介護と仕事の両立が行いやすい職場につながります。
プロフィール
三谷社会保険労務士事務所 所長
大学卒業後、旅館や書店等で接客や営業の仕事に従事。前職の製造業では、総務担当者として化学工場での労務管理を担う。2013年に社労士事務所開業。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重視したコンサルティングと、自身の総務経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚い。就業規則の作成、人事評価制度の構築が得意。商工会議所、自治体、PTA等にて研修や講演多数。大学の非常勤講師としても労働法の講義を担当する。趣味は、喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。