【判例に見るパワハラ事例集】 パワハラが発生したら、加害者に対し、事後対応をどのように進めるか

公開日:2025年3月5日

 

 

【判例に見るパワハラ事例集】

パワハラが発生したら、加害者に対し、事後対応をどのように進めるか


<榎本・藤本・安藤総合法律事務所 弁護士・中小企業診断士 佐久間 大輔>

 

 パワーハラスメントをめぐり、企業や加害者の損害賠償責任を認容する判決が相次いでいる。

今後もパワハラ事案の訴訟が増加し、企業責任を肯定する裁判例の傾向は続くだろう。

そこで、管理監督者の言動が違法となる場合を見極めた上で、パワハラ防止対策を講じることが望ましい。だが、いざパワハラが発生したときに、加害者にどう対応するのかも重要となる。

 

加害者に対する調査をする際の留意点

加害者をヒアリングする際は、事実を否認する、虚偽の供述をする、自己を正当化することがあることを想定しておく。このような態度を取ったら、パワハラ防止の趣旨を説明するほか、次のとおり説諭する。

① 早期に事実を認めて調査に協力するとともに、反省の意を示し、また被害者に謝罪をするときは、処分を免除または軽減することがある。
② 関係者の事情聴取によりパワハラ言動が認定されるのに、合理的な理由もなく否認したり、反省・謝罪の意を示さなかったりするときは、処分を加重することがある。
③ 虚偽の供述をするときはそれ自体が懲戒事由となる。
④ 被害者や目撃者に対し、相談や報告を理由として不利益な取扱いをするときは、処分を加重することがある。

処分の軽重を理由に自白を強要すべきではないが、説諭しても加害者が応じないことがある。

刑事事件の犯人が逮捕当初は否認していたものの、捜査が進む段階で自白に転じるという報道を目にするが、パワハラ加害者の心理も同様なのだろう。その場合はヒアリングを延期し、一定の期間を空けた上で再度実施した方がよい。

では、ヒアリング時に、加害者に調査協力義務が発生するのだろうか。

クレディ・スイス証券事件・東京地裁平成28年7月19日判決は、営業職のマネージャーがセクハラ発言や電子メールによる社外活動に関する相談をしたことを理由として諭旨退職(懲戒解雇)された事案につき、「原告が電子メールの記録全部を提出するとすれば、これは原告自身の不適切な社外活動に向けた言動を申告することにほかならず、このように、原告が申告すれば問題にされることが予想される原告自身の言動について、被告から申告を求められたり質問されたりしていなくても、原告の側から積極的に申告等をする法的義務まで本件雇用契約上認めることはできない」と判断した。

この裁判例からしても、調査段階でのトラブルを防止するため、加害者が証拠提出を含めた調査協力義務を負うことを就業規則に定めて、労働契約上の義務としておく必要がある。

 

懲戒処分の選択に関する人事労務担当者の対応

プロフィール

佐久間 大輔
榎本・藤本・安藤総合法律事務所 弁護士・中小企業診断士
1993年中央大学法学部卒業。1997年東京弁護士会登録。2022年中小企業診断士登録。2024年榎本・藤本・安藤総合法律事務所参画。近年はメンタルヘルス対策やハラスメント対策など予防法務に注力している。日本産業保健法学会所属。
著書は『管理監督者・人事労務担当者・産業医のための労働災害リスクマネジメントの実務』(日本法令)、『過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方』(労働開発研究会)など多数。
DVD「カスタマー・ハラスメントから企業と従業員を守る!~顧客からクレームを受けたときの適切な対応とは~」、「パワハラ発生!そのとき人事担当者はどう対処する?-パワーハラスメントにおけるリスクマネジメント」も好評発売中。
公式ウェブサイト「企業のためのメンタルヘルス対策室/事業承継支援相談室」

 

 

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