【判例に見るパワハラ事例集】
パワハラが発生したら、被害者に対し、事後対応をどのように進めるか
<榎本・藤本・安藤総合法律事務所 弁護士・中小企業診断士 佐久間 大輔>
従業員がパワーハラスメントを受けたと申告してきたときは、被害感情を有しており、加害者である経営者・管理監督者または企業との間でトラブルの発生が懸念される。
そのため、被害者との信頼関係を構築することが重要だ。信頼関係を維持するためには、被害者の話を傾聴することが望ましい。
逆に申告を事実でないとして即断する、または申告を放置するという対応は厳禁である。
被害者への対応をする際の留意点
まず、被害者の心身の状況やパワハラ言動が行われた際の受け止めも踏まえつつ、被害者からヒアリングをする。
被害者に対しては、信頼関係を構築するため、丁寧に、粘り強く話を聴くようにする。
話の腰を折らない、私見を述べない、断定しない、反論や否定をしないことが定石となる。
被害者側に問題行動があったとしても、自らを省みるよう指導することは必要だが、それに終始すると継続的に相談する意欲を失ってしまう。
話を聴くことを優先し、被害者に対する指導はタイミングを見極めて行うべきだろう。
ヒアリングの際には、先入観を持った調査は慎むべきである。
C社事件・大阪地裁平成24年11月29日判決は、セクシュアルハラメントの虚偽報告を理由に女性事務員を解雇した事案につき、法人および代表者と専務に対して慰謝料計60万円の支払命令を言い渡した。
大阪地裁判決は、女性事務員が代表者に専務からのセクハラ被害を報告し、代表者もそれにより初めてそのような事実が存在する可能性を認知した以上、事業主は、まず、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認するために、当事者の双方から事実関係について充分聴取した上で、いずれの主張が信用できるか慎重に検討すべきであるにもかかわらず、代表者は、はなから女性事務員の被害申告が虚偽であると決めつけていると認定し、解雇が違法であると判断した。
このケースはセクハラの事案だが、パワハラ事案でも、ハラスメントに該当するか否かをいきなり評価するのではなく、被害者の主張する事実について迅速かつ正確な調査をすることから始めるべきである。
プロフィール
著書は『管理監督者・人事労務担当者・産業医のための労働災害リスクマネジメントの実務』(日本法令)、『過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方』(労働開発研究会)など多数。
DVD「カスタマー・ハラスメントから企業と従業員を守る!~顧客からクレームを受けたときの適切な対応とは~」、「パワハラ発生!そのとき人事担当者はどう対処する?-パワーハラスメントにおけるリスクマネジメント」も好評発売中。
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