6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024」(いわゆる骨太方針2024)にて、「カスタマーハラスメントを含む職場におけるハラスメントについて、法的措置も視野に入れ、対策を強化する。」の一文が加えられました(※)。
いよいよ企業は、カスタマーハラスメント(以下、「カスハラ」と呼ぶ)対策に本腰を入れなければならなくなります。
ですが、そもそもカスハラとは何なのか、企業に及ぼす影響を理解した上で、カスハラに対する具体的な措置について検討することが重要になります。
では、まずカスハラとはどう言う状況を指すのか見てみましょう。
そもそも「カスハラ」とは
カスハラとは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相応なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」(厚生労働省 「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」より)としています。
つまり、顧客からのクレームの中でも、従業員に対する暴行や脅迫、暴言などの行為によって、従業員が安心して働けなくなる状態のことを言います。
上記の厚生労働省のマニュアルによると、カスハラの件数は増加傾向にあり、内容としては、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返す過度なクレーム」や「名誉毀損・侮辱・ひどい暴言」が多数を占めます。
このような行為を受けた従業員は、心身の健康を損ない、業務の生産性に大きく影響するだけでなく、放置すると休職率や離職率の増加につながり、企業へのダメージが懸念されます。
したがって、企業としても、カスハラから従業員を守る体制を構築することは急務と言えます。
ただし、顧客の主張や要求がすべてカスハラに該当するわけではないことに注意が必要で、企業が真摯に対応すべき内容なのか、カスハラと判断するのか判断基準を設ける必要があります。
つまり、初期段階として顧客の主張に耳を傾け事実関係や因果関係を確認した上で、企業側に過失があるかどうかを判断することになります。
企業側に過失があると判断された場合は、謝罪や返金などの対応を行い、過失がないと判断したときは、その旨を顧客に丁寧に説明をします。
ただ、顧客からの主張や要求に妥当性があり、企業側に過失があったとしても、その言動が暴力的であったり、長時間の拘束を伴う場合は、カスハラに該当する可能性が高くなります。
では、カスハラから従業員を守るための具体的な措置についてお話しましょう。
従業員を守るカスハラ対策の措置とは
カスハラ対策の措置は、まずは企業がカスハラ対策への取組姿勢を明確にすることから始まります。
すでに一部の企業では、カスハラに対しては毅然とした対応をする旨の公表がなされていますが、企業がカスハラ対策を講じると宣言をすることで従業員に安心感を与えることにつながります。
カスハラ対策への取組姿勢では、何がカスハラに該当するのか、企業がカスハラから従業員を守る、カスハラを受けたら相談してほしい、などの事項を入れて従業員に周知をします。
次に、カスハラに関する研修を行い、具体的な対応について従業員に対して教育を行います。
具体的な対応とは、相談窓口の連絡先や相談方法、複数で顧客に対応することのマニュアル化、上司に顧客対応をバトンタッチするタイミングなどが考えられます。
従業員に対して具体的な対応を教育することで、現場対応のスキルが上がり、顧客に対して自信を持って対応できることにつながりますので、研修はぜひ実践していただきたい措置です。
カスハラの相談窓口については、必ずしも社内のスタッフで構成する必要はなく、たとえば弁護士や社労士などカスハラに対する知識を持った外部の専門家に委託をすることも可能です。
その際は、相談内容について現場責任者や総務担当者などと情報をスムーズに共有をする必要があることは言うまでもありません。
受けた相談内容によっては、他の店舗などへ情報共有を図ることも有効です。
そうすることで顧客対応をする従業員を孤立させず、組織で顧客対応を行う流れを作ることで、従業員の心身の安全を確保することとします。
また、カスハラ対策における現場環境で重要なことは、「証拠の保存」です。
たとえば、電話での対応の場合、録音システムを導入したり、現場に録画用のカメラを設置し記録を保存することは、万が一、法的手段に移行する場合に必要な証拠になり得ますので、企業のカスハラへの対応力を上げることにつながるでしょう。
いかがでしょうか。カスハラから従業員を守る措置を講じることは、企業を守ることに直結することがお分かりいただけたかと存じます。
全ての措置を一気に講じることは難しいため、社労士などの専門家と相談しながら少しずつでも企業全体で取り組まれることを願っています。
プロフィール
ひろたの杜 労務オフィス 代表(https://yoshismile.com/)
営業や購買、総務などの業務を会社員として経験したのち、社会保険労務士の資格を取る。いくつかの社会保険労務士事務所に勤務したのち独立開業する。現在は、労働者や事業主からの労働相談を受けつつ、社労士試験の受験生の支援をしている。
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