採用する際には気づかなかった従業員の能力不足や協調性の欠如など、トラブルを抱えた従業員に対して会社はどのように対応をしていけばいいのでしょうか。
解雇権は会社側が持つ権利であり、労働基準法上のルールを守れば、直ちに違法性が問われるわけではありません。
しかし、従業員に対していきなり解雇を通告しては、不当解雇を理由とした労使のトラブルに発展する可能性が高くなります。
では、トラブルを抱えた従業員から企業を守るためにはどうすればいいのかお話しましょう。
従業員の能力不足に対する企業の対応
まず、何の能力が不足しているのかを客観的に把握することがスタートになります。
業務を行う能力を客観的に判定するために、単にグループ内で平均的な水準に達していない、もしくは、従業員の中で相対的に低いレベルにある、という判断方法は避けましょう。
従業員が複数いれば業務の遂行能力に個人差があるのは当然のことなので、業務の遂行能力を相対的に評価すると、最下位に位置する従業員を常にターゲットにすることになりキリがありません。
したがって、必要とされる業務の重要性や能力の程度、企業が受ける不利益の程度を具体的に浮かび上がるようにしましょう。
たとえば、経理業務の場合、業務の内容として伝票の作成や売掛金・買掛金管理などいくつもの業務がありますが、誰でもできる業務なのにケアレスミスが多い、比較的高度な能力が求められる業務であるものの完成に時間がかかってしまい決済に支障が出る、というように具体的な業務について分析を行います。
その上で、その従業員とヒアリングを行うのはもちろん、スキルアップのために教育の機会を設けることも重要です。
その過程として、具体的な目標を設定してどの程度クリアできているかを上司が客観的に分析して従業員にフィードバックし、業務の遂行能力がどれだけ変化しているかを共有します。
それを行う目的は、企業がその従業員に対して教育をどれだけ行ったのかを記録しておくことで、最終的に解雇に至ったとしても、万が一、労使紛争に発展したときに、解雇に至るまでの企業側の努力を示すことにあります。
ただ、もともと経理業務の欠員を補うために業務に特化した従業員を即戦力として中途採用したものの、業務の遂行能力不足が発覚することもあり得ます。
そのときも、企業側が従業員の遂行能力を客観的に把握し、それについて従業員と情報共有を行い、従業員に理解を求めます。
そして、ある程度の猶予期間を設けて改善の機会を与え、それでも遂行能力が向上しない場合は、退職勧奨や解雇を検討することになるかと思います。
どちらにしても、拙速な解雇は避け、従業員とコミュニケーションを図り、話し合いをしていくことが労使トラブルを避ける重要なプロセスとなります。
では次に、協調性の欠けた従業員に対する対応について見てみましょう。
協調性のない従業員から企業を守るために
企業が円滑に運営されるためには、従業員同士がそれぞれの役割を認識し、お互いに協力し合って業務を遂行していくことが何より重要です。
ただ、人間関係は常に変化していくものであり、最初は上手く協力関係が築けていたのに、協調性をなくしたり、反抗的な態度をとる従業員が出てくる可能性があります。
その時、企業側が取るべき最も大切な姿勢が「中立」です。
多くのケースでは、反抗的な態度を取る従業員に対して上司が不満を持つため、どうしても反抗的とされる従業員が悪者になりがちです。
しかし、企業側が表面に出ている印象だけで判断してその従業員を排除するのはリスクが高いと言えるでしょう。
ここで大切なことが、事実確認です。
たとえば、上司がどんな業務命令を出した時に、従業員が反抗的な態度を取ったのか具体的な言動を記録することです。
仮に一つ一つの言動が小さいものだったとしても、それを積み上げることで、従業員の態度に対する改善命令や指導、警告を行うことができるようになります。
それにもかかわらず、従業員の態度が改善しない場合は、懲戒処分を検討することになるのですが、そのためにはあらかじめ就業規則などで懲戒規定を定めて周知をしておくことが重要です。
よく耳にするのが、就業規則はあるものの、従業員が開示を求めてもそれに応じないというものです。
就業規則は、その定めがあるだけでは効力はなく、従業員がいつでも見ることができる環境にあってはじめてその効力が認められます。
次に、従業員の懲戒処分を検討しますが、最初は戒告のような軽い処分がスタートとなります。
いきなり減給といった重い処分にすると、その相当性が損なわれる可能性が高いので、従業員からその不当性を主張されると、トラブルに発展しかねません。
従業員を懲らしめるのではなく、改善を促すための懲戒処分であることを忘れないようにしましょう。
いかがでしょうか。
トラブルを抱えた従業員から企業を守るためには、客観性、中立といった姿勢が重要です。
企業側が感情的になってしまわないよう、たとえば社会保険労務士といった第三者の意見を求めることも有効です。
企業を適切に運営できるよう従業員を適切に導くようにしたいですね。
プロフィール
ひろたの杜 労務オフィス 代表(https://yoshismile.com/)
営業や購買、総務などの業務を会社員として経験したのち、社会保険労務士の資格を取る。いくつかの社会保険労務士事務所に勤務したのち独立開業する。現在は、労働者や事業主からの労働相談を受けつつ、社労士試験の受験生の支援をしている。