「災害発生時の労務管理」について、第1回では、社員の安全を第一に事前に具体的に検討しておくべき事項を8つ提示し、第2回で労務管理上検討すべき事項の(1)と(2)について触れました。今回は(3)以降をみていきます。
労務管理上検討すべき事項 (1) 出社させるか、または退社させるかの判断基準
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(3)会社や自宅での待機時間の労働時間性の判断
災害の襲来に備え、あるいは現実の災害発生時に会社で待機する場合と、自宅で待機する場合には労働時間性に違いがあります。
待機時間が労働時間として扱われるか否かの判断は、その時間における業務上の拘束性がどの程度大きいかによって変わります。
場所的な拘束性、時間的な拘束性、そして、指揮命令下の業務による拘束性があるかを見るわけですが、会社で待機する場合は、PC等を使用した仕事は容易に可能です。
それ以外にも、社内外からの連絡が入る可能性が、それに対応した業務が発生することも十分あります。従って会社で待機する場合は労働時間として把握されるべきと考えられます。
一方、自宅待機は一般的に業務遂行が困難であり、社員が自由に時間を使うことが可能といえます。従って、具体的な上司からの指示命令により業務遂行する場合や、テレワークをする場合を除き、自宅待機中は労働時間とは言えないと判断されます。
(4)賃金支払い義務
賃金支払い義務について考えると、まず、私傷病等自己都合による欠勤は、「ノーワークノーペイ」の観点から、賃金支払い義務はありません。
反対に、不況、資金難、材料不足等の経営障害による休業の場合は、労基法で当該社員の平均賃金の60%以上の休業手当の支給義務が定められています。
では、災害発生の場合、会社と社員とがその不利益をどう分担するか。行政通達では災害による不可抗力による休業の場合は、休業補償は不要とされています。
そして、不可抗力によるというためには、「➀その原因が事業の外部より発生したものであること、➁事業主が通常の経営者としての最大の注意をつくしてもなお避けることができないものであること」の2つの要素が必要とされています。
ちなみに、2011年3月11日の東日本大震災の際には、行政通達で「企業側の責任とは言えず休業手当を補償する必要がない」としています。
ただし、就業規則に自然災害や交通機関の停止などの不可抗力によって出社できない場合には、労務提供がない以上賃金支払いが免除されると明記し、社員に周知しておくことがトラブル防止になります。
とは言うものの、天候悪化を予測しての自宅待機での場合、「不可抗力」と言えるかという微妙なところもあり、無給ではなく少なくとも6割の休業補償は支給する。そして、社員に有給休暇取得か休業補償を受けるかの選択をしてもらうことが社員に納得感を得やすい対応と言えます。
更に、災害の影響を受ける社員に、福利厚生の観点から有給の特別休暇とする選択もありますが、公共交通機関の途絶や自宅の浸水倒壊等による出勤ができない状態が継続することがあります。
そうなると会社の賃金負担も限度があり、付与日数をどうするかが問題になります。
予め3日~1週間を限度とすることが、現実的な目途と考えられ、それ以上は該当社員の多寡や被害の大小等で個別対応とし、これを福利厚生規程等で明示しておくべきと考えます。
賃金について(例) ・災害の影響により欠勤した場合、休業補償手当を支給する。 遅刻早退等の一部休業日は、「平均賃金×60%―支払われた賃金」を支給します。 ・希望により有給休暇取得することができます。 ・業務上必要がある場合は、振替出勤日を指定する場合があります。
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(5)36協定上の労働時間規制
労働基準法第33条第1項の「災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合」には、会社は労働基準監督署長の許可(事態が急迫している場合は事後の届出)により、必要な限度の範囲内に限り時間外・休日労働をさせることができるとされています。
災害発生の対応(差し迫った恐れのある場合には事前の対応も含む)とは、➀急病人への対応その他の人命または公益の保護のため、➁そのために協力要請に応じる場合、➂事業の運営を不可能ならしめるような突発的な機械設備の修理、保安システム障害の復旧する場合等があります。
災害等により労働基準法第33条第1項に基づく時間外や休日出勤を行なわせる場合には、事前に会社は「非常災害時の理由による労働時間延長・休日労働許可請書」に時間延長・休日労働を必要とする事由、時間延長を行う期間及び延長時間、休日労働を行う年月日等を明記して許可申請を行い、労働基準監督署長の許可を得なければなりません。
ただし、労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働はあくまで必要な限度の範囲内に限り認められるものです。
過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を月45時間以内にする等が重要です。
また、やむを得ず長時間にわたる時間外・休日労働を行わせた社員に対しては、医師による面接指導等を実施し、適切な事後措置を講じる必要があります。
(6)労働災害
災害時の通常とは異なる経路での通勤途上を含めた労働災害をどのように考えるかについては、労災保険の基準に添う必要があります。
仕事中に、地震や津波により建物が倒壊したこと等、業務が原因で被災した場合は、労災補償の対象となります。通勤途上で被災した場合も、業務災害と同様に労災補償の対象となります。
仕事中に災害に遭い、行方不明になった場合は、民法の規定により行方不明になった時から一定年数経過後死亡したとみなされたときは、遺族補償給付の請求ができます。
下記のような例は、労災補償の対象となります。
- 仕事以外の私的な行為をしていた場合を除き、仕事中に災害により死傷した場合
- 仕事中に災害に遭遇し、ある地域に避難指示が出たので避難(避難は仕事に付随する行為といえる)している最中に死傷した場合
- 休憩中であったとしても、事業場の管理する施設(会社の建物の中等)にいるときに、災害により死傷した場合
- 事業場外で勤務しているとき(私的な行為をしていない)に、災害により死傷した場合
(7)労務管理規定
以上を踏まえて、法的観点からの定めと、福利厚生的な定めをどのように規定するか。前述の(4)の賃金支払いに際して無給とするのは、法的観点で逸脱はしていません。
休業補償や有給の特別休暇の付与は、福利厚生的からの社員に援助の一環といえます。
更に、災害時の見舞金制度を設けるのも同様です。
予測を超える災害の発生はそう度々は発生しません。社員として金銭面で備えが十分でない場合もあります。
そのようなときに会社が救いの手を差し伸べることは、社員の帰属意識を高めることになります。
もしもの時に社員への支援を惜しまない姿勢が、その後の社員のモチベーションを高める可能性もあります。
普段から災害時の金銭的支援の準備をすることが、長期的に見て会社経営にプラスをなると考えられます。
(8)災害時の緊急連絡先の登録と個人情報の保護
災害時の安否確認システムの導入や緊急連絡網を作成しようとしたとき、社員の中に自分の携帯電話や電子メールアドレス等を会社に告知することを拒否するものが出た場合どう対応するか。これに対して会社には災害時の社員に対する「安全配慮義務」があります。
また、可能な限り早急に、業務上も各社員の出社の可否を正確に把握する必要性があります。
また、仮に携帯電話番号はわかっていても、いざ災害発生時に充電が切れていたり、圏外であったりして通信ができないことも想定されます。
したがって、個人情報を取得し使用する目的を明示し、それを遵守することを説明して、極力電話番号、固定電話番号、電子メールアドレスの告知を求めます。
それでも、告知それを拒否する社員には、災害時に自ら安否確認をする義務を課し、万一連絡が取れない場合の不利益を社員が負う旨を文書で明確にしておく必要があります。
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平時に災害対策を練ることは何かしら無駄なこと、余分なことと思われがちです。
しかし、想定外の災害が年に何度か起きている現実を見据え、いざという時に後悔しない準備を怠らないことが大事です。
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プロフィール
福田 惠一
寿限無(じゅげむ)経営コンサルティング代表
金融機関にて営業・融資を担当後、同総合研究所で人事金制度構築コンサルの経験を積み、退職後「寿限無経営コンサルティング」を開業。上場会社総務顧問も経験。経営の観点と社員の双方にとっての望ましい労使関係構築支援のため、人事・賃金・考課制度の整備、人事労務トラブル対応、紛争予防のための社内規程整備、マネジメント研修・ハラスメント研修等社員各層への研修、各種助成金申請支援等に注力。