【専門家コラム】上司力をどう発揮するか

公開日:2024年6月6日

 

上司力をどう発揮するか


<株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 代表取締役 大曲義典 社会保険労務士事務所 所長 大曲義典/PSR会員>

部下から慕われる上司を上司力があるとか表現される。

日頃の職場環境では、この上司と部下の関係性で仕事が回っているといっても過言ではないから、上司力は極めて大切な概念となる。

この上司力という言葉は「部下から慕われる上司」から「仕事上、部下から信頼される上司」に置き換えることもできよう。

そうなるために上司は部下にどのように対処すべきなのか?事例を設定しながら考えてみよう。

 

設定事例

某機械メーカー営業部係長のAは、営業経験年数5年のベテランの域に達した中堅どころの社員である。

普段の営業成績は中の上近辺に位置し、成績が悪い方ではない。

ただ、大人しく上司に自分の考えや思いを直言するタイプではない。

最近、会社の命運がかかる新製品が発売されることになり、営業部長Cから営業社員10名を前に発破がかけられた。

とにかく売り込み一念のAは闇雲に営業をかけていったが、空回りも多く問題が噴出してしまった。

自分の手に負えなくなったAは上司に相談したのだが……。

 

問題の発生と部下Aから上司Bへの相談

Aの気合とは裏腹に、クライアントの新製品への食いつきは芳しくなく、一向に営業成績が上がらないばかりか、既存顧客からは「説明を受けても新製品の機能の良さがわからない」「新製品へ買い替えるべきかどうか、さっぱり分からない」などのクレームが殺到することになった。

どうしたら良いのか分からなくなったAは直属の上司である営業一課長Bに「課長、どうしたらよろしいでしょうか?○○○○~こういう方法で営業をかけてきましたが、販売どころかクレームの嵐です。アドバイスをお願いします」と相談し、助けを求めた。

 

上司Bの部下Aへのアドバイス①

今回の新製品販売プロジェクトの重要性は説明していたよね。

君は成績優秀なんだから、自分で考えて対処していきなさい。

仕事は自分で試行錯誤しながら覚えていくものだよ。他の営業社員を見習わないと。

 

上司Bの部下Aへのアドバイス②

○○○○(具体的に)したら良いと思うよ。

そうしたら解決する(良くなる)方向にスパイラルするはずだから。

クレームについては、君の説明に○○○○(具体的に)の部分が足りなかったと思うから、従前の説明に修正を加えながら、改めて説明してみなさい。

それでも上手くいかなかったら私から説明するようにする。

このようなサポートはするが、それに安住してはだめだよ。目標に向けて、自らを厳しく律して取り組むようにしなさい。

 

この2つのアドバイスで、どちらが部下からの信頼を得られるかは一目瞭然である。

部下Aが窮地に陥り、しかも問題の根幹が会社の命運を握るであろう新商品の販売に関することである。

上司としては、当該問題には即断即決が必要であることを認識すべきであるし、素早く引き出しを開けて、「どうしたら直ちに解決できるか」という解を導きアドバイスしなければならない。

それが上司に求められる対応となる。

そもそも部下が、自ら招いたとはいえ、その状況を問題だと感じたということは、自分で解決できそうもないと観念したということでもある。

従って、具体的な解決ソリューションを提示し、まずは自力で解決に至るように導くことが必要となる。

また、自力での解決を促しながら、最後は上司がケアするというアドバイスも正しい行動となる。

さらに、部下がどうにもならない状態で白旗を揚げているときは、その仕事の役割・責任を部下からリリースしてやることも視野に入れておかなければならない。

その場合、仕事が消え失せる訳ではないから、代わりの人材を他部署と調整して調達するとか、自らをも含め自部署で担当の調整をするとか、のマネジメント力も必要となる。

アドバイス②のような対応ができるか否かは、日頃から仕事の全体像を見ることができているか、部下の視点で仕事を見ることができているかどうかである。

このような対応ができる上司は「部下から信頼される上司」との評価を得るだろう。

それに引き換え、アドバイス①は、その場しのぎの他責感ただよう内容となっている。

このように、自らのポジションの役割・責任を放棄しているように見える上司は、決して部下から信頼されることはない。

また、アドバイス②の最後の叱咤激励は、最近どこの会社でも流行りのようになっている「心理的安全性」が形式で終わらないようにするための諫言とも言えよう。

心理的安全性の運用を間違えば、社員も組織も成長しなくなりパフォーマンスも上がらない「ぬるま湯」状態に陥ることもあり得る。

社内の心理的安全性は担保しつつ、言うべきことは言う、出来ていないことは出来ていないとはっきり伝える。

このように、時には叱責していく姿勢がないと、結果的に人は育たないし組織も成長しないことになる。

 

プロフィール

大曲 義典

株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 代表取締役(http://www.wbc-associate.co.jp/) 

大曲義典 社会保険労務士事務所 所長

関西学院大学卒業後に長崎県庁入庁。文化振興室長を最後に49歳で退職し、起業。人事労務コンサルタントとして、経営のわかる社労士・FPとして活動。ヒトとソシキの資産化、財務の健全化を志向する登録商標「健康デザイン経営®」をコンサル指針とし、「従業員幸福度の向上=従業員ファースト」による企業経営の定着を目指している。最近では、経営学・心理学を駆使し、経営者・従業員に寄り添ったコンサルを心掛けている。得意分野は、経営戦略の立案、人材育成と組織開発、斬新な規程類の運用整備、メンヘル対策の運用、各種研修など。

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