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【専門家の知恵】GPIFの「年金積立金」運用見直しを憂う

GPIFの「年金積立金」運用見直しを憂う

<株式会社WBC&アソシエイツ 大曲 義典/PSR会員>

 

◆年金積立金の基本ポートフォリオの見直しが発表された

 厚生年金・国民年金の積立金130兆円の運用を預かるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリオの見直しが、10月31日に発表された。運用対象資産に占める債券の比率を落とし、株式へシフトしていこうとするものである。
 具体的には、現在の国内債券60%、国内株式12%、外国債券11%、外国株式12%、短期資産5%を、各々35%、25%、15%、25%(短期資産は除外)に変更されるようだ。

 大丈夫だろうか?本当に国民のことを考えた決定なのだろうか?今後の株式市場や債券市場の動向を見通したうえでの対応なのだろうか?このように次から次へと疑問が湧いてくる。

 職業病かも知れないが、これらの決定プロセスで「年金積立金」の性格論が全く聞こえてこなかったのには、少なからず驚いている。誰であろうと、資産運用にあたっては自らの「リスク許容度」を図ることが最も大切な前提となる。つまり、投資しようとする資産の性格が「余裕資金なのかどうか」「運用期間は短・中・長期のいずれなのか」などを十分に理解することから始めなければならないのだ。家計に例えるなら、差し迫った子供の教育資金をリスクの高い金融商品で運用する人はいないだろう。それでは、この「年金積立金」はどう運用してもいい余裕資金なのだろうか?

 

◆「年金積立金」は「余裕資金」ではない

 年金制度の歴史を紐解けば分かることだが、元々公的年金制度は「積立方式」で始められた。厚生年金の原形は昭和29年までさかのぼる。発足当初は、当然のことながら年金受給者は少ないから、保険料≒積立金でどんどん積み上がったのである。それで、太っ腹になった「誰かさんたち」は、本来受給権のない人たちへ大盤振る舞い、収益も上げられない年金●●施設を全国各地に建設、自分たちのために健康器具を購入、などなど開いた口が塞がらない散財を繰り返してしまった。結果、「積立方式」を維持することができずに、国民に諮ることもなく「修正積立方式」=「賦課方式」に勝手に変更してしまったのである。平たく言えば「国民の皆さんに払っていただいた保険料を本来の目的から逸脱して使い込んでしまいました。これから払っていただく保険料は年金受給者にそのまま仕送りすることにします。もし、保険料が仕送り額に足りない場合は、私たちが使い込んだ残りの積立金が少し残っていますので、それを充てることにします。」ということなのだ。

 もし、現在においても「積立方式」が維持されていたら、積立金は700兆円以上なければならないと言われている。従って、積立金130兆円というのは大きな額には違いないが、私たちは「たったこれだけしかないの?」と捉えるべきなのだ。
  
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 もうひとつ理解しておかなければならないのは、現在の積立金から毎年度5兆円前後を取り崩して、年金給付費に充てられているという事実だ。つまり、「誰かさんたち」の予想どおり、現在の年金給付は保険料収入で賄えていないのだ。上図は、厚生年金+国民年金の単年度の収支構造を表している。ご覧のとおり、GPIFの「年金積立金」がいかに重要な役割を担っているかご理解いただけるだろう。

 要するに、GPIFの「年金積立金」は、
  1. これ以上、本来の使途を逸脱して目減りさせてはならない資金
  2. 毎年度の年金給付に必要不可欠の資金
 という性格を持っているのだ。従って、その運用に当たっては、実質利回りがプラスになる程度のリターンを目標とすべきで、決してボラティリティの高い運用を選択すべきではない。

 

◆運用対象資産に占める債券の比率を落としたということは

 さらにもう1点。株式に投資するということは、その投資先の株主になるということを意味する。公的な性格の強い「年金積立金」で特定の企業をサポートすることは、通常であれば倫理的に規制されなければならない。利益相反の可能性が出てくるからだ。だからこそ、これまで国債中心での運用が選択されていたとも考えられよう。国債とは、それが建設国債・赤字国債であっても、最終的に国民が何らかの恩恵を受けるものだからである。

 もちろん、GPIFが仮に一般投資家であれば、見直された基本ポートフォリオが一概に悪いとは言えない。現状において、必ずしも債券が安全資産だとは言えないし、場合によっては株式よりリスクが高いとの判断も成り立つからだ。しかしながら、これまで縷々述べてきたようにGPIFはルビコンを渡ってはならない宿命を背負っているはずだ。

 今回の決定は、実質的に有識者=「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」が行っている。経済財政政策担当大臣の私的諮問機関になる。年金を所管する厚生労働省は蚊帳の外。驚くべきことに、有識者として年金の専門家は1人も入っていない。一体、誰が誰のために何をしようとしたのか。いずれにしても、彼らが今回のような決定を下したということは、大義として日本の財政=国債に見切りをつけたと言われても仕方のないことだ(ただ、国債運用の減少分は軌を一にして日銀が買い増すそうだが)。株価を人為的に吊り上げ、それが未来永劫続くが如き幻想を抱かせ、その原資に「年金積立金」を借用する。果たして、許されることなのだろうか?少なくとも、過去の過ちを繰り返すことだけは避けてもらいたいものだ。

 

 

プロフィール

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社会保険労務士 ファイナンシャル・プランナー(CFP®) 1級DCプランナー 大曲 義典
株式会社WBC&アソシエイツ(併設:大曲義典 社会保険労務士事務所)
1万円札を積み上げたら1万㎞の高さ、重さは10万トン。日本の抱える借金残高1000兆円の実態です。社会保障費の増加が主因です。事の本質を捉え、ゆでガエル状態からの脱却を目指した経営戦略支援を心がけています。

 

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