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【専門家の知恵】顧客からハラスメントやクレームを受けた従業員を守るためのマネジメント

 顧客からハラスメントやクレームを受けた従業員を守るためのマネジメント

<つまこい法律事務所・弁護士 佐久間 大輔>

 

 2020年6月1日に施行された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」は、事業主に対し、パワーハラスメントに関する相談体制の整備や、その他の雇用管理上の必要な措置を講じることを義務づけた。これに対し、他の事業主が雇用する労働者からのハラスメントや顧客からの迷惑行為(カスタマー・ハラスメント)については、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(2020年1月15日厚生労働省告示5号/以下「パワハラ防止指針」という)に定められるにとどまった。企業は、顧客や取引先といった関係先からハラスメントやクレームを受けたとき、どのように対応すればよいのだろうか。

 

◆管理監督者が取るべき対応

 顧客や取引先からクレームを受けたときは、契約上の信頼関係を維持することを基本方針として、迅速かつ誠実に対応することが望ましい。そのため、クレーム内容や態度が社会通念上相当であると認められる場合には、最初からクレーマー扱いするのではなく、製品やサービスの改善につながる可能性を考慮して前向きな姿勢で取り組むことが必要だ。

 これに対し、クレームの内容や態度のどちらか、または両方が、社会通念に照らし合わせても不相当である場合には、相手をクレーマーとして対応し、親身な態度は維持しつつも企業としては毅然とした態度を示す必要がある。具体的な対応方法は、本サイトに掲載された拙稿(「労働者側から損害賠償を請求されたとき、企業はどう対処するか」)で解説した「労働者側請求対応の方法」を応用することができるので参考にしていただきたい(※)。

 クレームがエスカレートすれば、いわゆる「カスタマー・ハラスメント」に発展する可能性がある。対応方法がわかったとしても、顧客や取引先からのクレームを聞くことは、精神衛生上よろしくないことは誰もが経験上理解できるだろう。

 この点について、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(2011年12月26日基発1226第1号)は、「顧客や取引先からクレームを受けた」ことが業務による心理的負荷を生じさせると評価している。クレーム対応が職場のストレス要因となり、従業員の健康に影響を及ぼすことを認識しなければならない。クレーム対応によって労働者のメンタルヘルスに害が及ばないよう予防策を講じることが、企業としての安全配慮義務の履行となる。

 そこで、まずは以下の2点に留意すべきである。

・クレームは「担当者レベルで対応できるもの」と「管理監督者が緊急に対応すべきもの」がある
・担当者が対応できる「小さなクレーム」だからといって軽視してよいわけではない

「小さなクレーム」への対応でも、担当者が抱く小さなストレスの積み重ねが「デイリーハッスル(日常の苛立ち)」となって蓄積されていく。そのため、担当者が、日常的な慢性ストレスと緊急時の急性ストレスにさらされることを前提とした配慮が必要である。クレームに対応する従業員に単独であたらせるのではなく、担当者を増員したり、職場の同僚や上司が適切に支援したりすることが必要だ。したがって、職場で支援するには、担当者だけが情報を保持した状態ではなく、職場で共有し、認識を共通させることが不可欠の条件となる。

「パワハラ防止指針」も、取り組み例として「著しい迷惑行為を行ったものに対する対応が必要な場合に一人で対応させない」ことをあげており、クレームやハラスメント対応には、職場における支援が必要であることは明らかだろう。

※参考
「労働者側から損害賠償を請求されたとき、企業はどう対処するか」《上》
「労働者側から損害賠償を請求されたとき、企業はどう対処するか」《下》

 

◆人事労務担当者が取るべき対応

「カスタマー・ハラスメント」についても、トップマネジメントがこれに毅然と対応し、従業員を保護するとの方針を表明することが先決である。

 職場でクレーム対応の前線に立つ管理監督者であっても、クレーム対応のプロではないので、専門の部署が窓口になる方が適切な場合もある。企業の実情に応じて職場の支援態勢を整備することが肝要だ。どのように支援していくかについては、クレーム対応が「業務による心理的負荷を生じさせる出来事」に当たる以上、PDCAサイクルによって態勢整備や文書化を行ったり、社員教育といった施策を実施したりが考えられる。これに加えて、実施状況を記録することになる。

「パワハラ防止指針」も、他の事業主が雇用する労働者からのハラスメントや顧客や取引先などから受けた迷惑行為について、相談態勢の整備や被害者に配慮した取り組みを求めている。具体的には、以下のような取組みをあげている。

・相談先(上司、職場の担当者など)の選定と労働者への周知
・相談担当者自身が対応できる権限の付与
・クレーム対応の標準化(マニュアル作成)
・クレーム対応研修の実施

 さらに、もしも顧客や取引先から暴行を受けた場合、身体的負傷に関しては、使用者の損害賠償責任が認められる事案が多い。担当者がクレーマーから逃れる場所を確保したり、応援要員を派遣したりするなど、企業は、第三者からの暴行を防止する対策を講じておかなければならない。

 また、「パワハラ防止指針」は被害者のメンタルヘルス不調者への相談対応も取組みのひとつにあげている。精神的な被害や心的外傷についてはケース・バイ・ケースとなるが、職場や取引先で顧客などから暴行・暴言を受けた労働者に対するメンタルヘルスケアも必要である。事案によっては弁護士に相談して、助言を受けたりクレーム対応を依頼したりして、担当者の荷を軽くすることも検討課題である。

 反対に、自社の従業員が取引先や顧客に対して悪質なクレームをつけて加害者になる場合もある。このようなケースでも、自社が被害者だった場合のパワーハラスメント加害者への対応と同様に、「懲戒」を含め厳正な対処をする必要がある。前述の「労働者側請求対応の方法」を応用し、加害者となった当該従業員からカスタマー・ハラスメント被害者(取引先・顧客)に対して、迅速かつ誠実に対応することで2次クレームを予防しなければならない。不誠実な対応をすると、損害賠償請求のリスクを回避できないだろう。

 

 

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つまこい法律事務所・弁護士https://mentalhealth-tsumakoilaw.com/
弁護士 佐久間 大輔
労災・過労死事件を中心に、労働事件、一般民事事件を扱う。近年は、メンタルヘルス対策やハラスメント防止対策などの予防にも注力しており、社会保険労務士会の支部や自主研究会で講演の依頼を受けている。日本労働法学会・日本産業ストレス学会所属。著作は、「過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方」(労働開発研究会、2014年)、「長時間労働対策の実務 いま取り組むべき働き方改革へのアプローチ」(共著、労務行政、2017年)など多数。

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