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【専門家の知恵】メンタルヘルス不調に業務内外要因が絡む場合に、企業と専門家が連携してとるべき対策

 メンタルヘルス不調に業務内外要因が絡む場合に、企業と専門家が連携してとるべき対策

<つまこい法律事務所・弁護士 佐久間 大輔>

 

 メンタルヘルス不調は、業務内における要因、業務外での要因が影響しあって起こる相乗作用が核となり、引き起こされる。職場では、従業員の個体側要因を即座に労災認定や安全配慮義務違反とまで評価しないため、職場での心理的負荷要因と相まってメンタルヘルス不調に陥ることが多い。このようなケースの対応は難しく、産業医ら産業保健スタッフだけでなく、他分野の専門家も含めた有機的な連携が必要となる。

 

◆メンタルヘルス不調は業務内・業務外要因の相乗作用によって起こる

 従業員の、性格傾向や私傷病などの「個体側要因」、離婚や借金などの業務外要因、同僚との軋轢や配置転換など単体では「業務上」と認定されないが心理的負荷を生じさせる職場での要因、これらが相乗作用を引き起こしてメンタルヘルスの不調を発生させることがあると先ほど述べた。現状、こういった要因で生じたメンタルヘルス不調に起因する降格や解雇、職場復帰時の減給や退職をめぐる裁判が増えている。

 裁判までにはいたらなくても、職場では、業務内にて精神障害の労災認定を満たす基準の「強度III」の心理的負荷よりも、単体では労災認定されない「強度II」以下のケースを扱うことが多いと思われる。ストレス「強度II」でも、メンタルヘルス不調者にとってはストレス要因となることから、企業の対応は難しいものとなる。

 裁判にいたってしまった例から傾向に鑑みると、「業務外要因は企業側に原因がない」とか、「<強度II>以下の業務による出来事やストレス要因は労災認定されないから問題ない」といった楽観視は許されない。「労働契約法」第5条が定める「安全配慮義務」は、労働者の就労場所や業務内容だけでなく、年齢や健康状態などの個人的な事情も踏まえて具体的に決まるので、特定の労働者に対して企業が負う義務は状況によって変化するものなのだ。過重労働に従事させていなくても、健康状態の悪化を認識できるならば(現に認識している必要はない)、その悪化を回避・軽減するための安全配慮義務は発生するのである。

 例えば、アスペルガー症候群が疑われる労働者に対してパフォーマンスが低下したことを理由に業務改善プラン(PIP)を実施したり、うつ病により休職した労働者が職場復帰する際に配置転換したりする場合、こういった企業の対応が心理的負荷要因となって疾病が増悪して労働者間トラブルが発生して裁判にまでいたってしまったケースが実際にある。PIPや配転自体が直ちに安全配慮義務違反と評価される、とはいえないものの、具体的状況によっては同義務違反となり、労働トラブルに発展するリスクがあるのだ。
 
 それでは、企業の人事労務管理スタッフは、こういったケースにどのように対応すればよいのだろうか。

 

◆不調者への対処には、関係者や専門家の有機的な連携が必要

 メンタルヘルスの不調や発達障がいが疑われる従業員に対しては、管理監督者や人事労務管理スタッフでは対処しきれないことがある。そのため、産業医といった産業保健スタッフが早期に介入した方がよい。その際に、不調者に対する就業上の措置が労働契約変更に当たる場合、産業保健スタッフは、労働法の解釈や労働契約の評価が問題となることを、企業と不調者との共通認識にしておかなければならない。また、精神科医や心療内科医が主治医として職場復帰の可否や就業上の措置に関する診断書を作成する際も、同様の共通認識を持たせることが望ましい。

 自殺を防げなかったケースでは、産業保健スタッフを軸にした、人事労務管理スタッフや主治医との情報交換、連携がなされていなかった場合が多く見受けられる。メンタルヘルス不調者の事例性・疾病性が正確に把握できずに自殺という最悪の事態にいたってしまった場合、職場に影響を及ぼすだけでなく、遺族との間で裁判ともなれば関係者間の意思疎通が不十分であったことを理由に企業の損害賠償責任が肯定されうる。とくに、発達障がいについては、人事労務管理スタッフの指導や管理監督者のフォローアップができていたのか、という点が司法判断に影響を与える。そのため、産業保健スタッフとの連携はここでも鍵となるのだ。

 企業は、「障害者雇用促進法」第36条の3に基づき「合理的配慮の提供」が義務づけられている。この趣旨からすると、業務内要因と業務外要因とで相乗作用が起きてしまうことを予防するためには、関係者間の共通認識に基づいた連携を基礎として、職場での適正配置といった合理的配慮の提供を、メンタルヘルス不調者との間で協議することが肝要である。この場合、「合意」にまでいたる必要はないが、なるべく労働者の「同意」を得ることが望ましい。

 一方、産業医や主治医などの医療職は、医学的知見のみならず、法的な観点も踏まえてメンタルヘルス不調者本人に対応し、企業に助言した方がよい。そのため、法的問題やトラブル発生の懸念がある事例では、早い段階で、裁判例や紛争解決の視点から弁護士の意見を聞いて紛争の発生や拡大を回避した方がよい。また、日常的に労務管理の相談・指導をおこなっている社会保険労務士から助言を得ることも有効である。紛争予防の場面では、社会保険労務士が弁護士の意見を取り入れて企業を指導した方がよい。うつ病による休職者や発達障がい者に関しては、就労支援事業所のジョブ・コーチの導入も望まれる。

 このように、専門家が有機的に連携して人事労務管理スタッフをサポートすることで、メンタルヘルス不調者に対して合理的な配慮を提供することは可能だ。この配慮の提供によって、労働トラブルを予防することもできるのだ。

 関係者や専門家の連携は、メンタルヘルス対策にとどまらず、従業員の治療と仕事の両立への支援に役立つ。がん離職防止や障がい者の雇用、さらに、育児や介護などの家族的事情によってメンタルヘルス不調をきたした従業員への支援にも有用である。そのために、各専門家が学際的に継続的な協力関係を築くことが大きな効果をもたらすと思われる。このネットワークづくりが人事労務管理スタッフの役割であろう。

 

 

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つまこい法律事務所・弁護士https://mentalhealth-tsumakoilaw.com/
弁護士 佐久間 大輔
労災・過労死事件を中心に、労働事件、一般民事事件を扱う。近年は、メンタルヘルス対策やハラスメント防止対策などの予防にも注力しており、社会保険労務士会の支部や自主研究会で講演の依頼を受けている。日本労働法学会・日本産業ストレス学会所属。著作は、「過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方」(労働開発研究会、2014年)、「長時間労働対策の実務 いま取り組むべき働き方改革へのアプローチ」(共著、労務行政、2017年)など多数。

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