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 新型コロナウィルスに感染した(疑いのある)従業員が年休を取得したときの職場への対応

<つまこい法律事務所・弁護士 佐久間 大輔>

 

1 従業員の感染情報を職場に伝達できるか

 事業場外で新型コロナウィルスに感染した従業員から、感染症を上司や同僚に知らせないでほしいと人事労務担当者に申告があり、治療のため年次有給休暇(年休)を取得していたところ、同じ部署の同僚から当該従業員が休んでいることについて問い合わせがあった場合、人事労務担当者としては、感染の事実を職場に伝えるべきでしょうか。

 新型コロナウィルスに感染した従業員が年休を取得しているだけでは、疾病や治療の事実を同じ部署の同僚に告知するという問題は生じてきません。

 しかし、新型コロナウィルスに感染した従業員が、肺炎の悪化により入院が長引き、年休をすべて取得するという事態に至ることが想定されます。また、肺炎が重症化しなくてもPCR検査で陽性が持続することがあり、退院後に自宅療養をする場合でも2週間程度は外出を控えることが望ましいとされているので、その間に年休を使い切ってしまうケースも出てきます。この場合、職場の全員に知らせるのかどうかはともかく、少なくとも上司には報告する必要が出てくるでしょう。

 ただし、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)により、個人情報取扱事業者である企業は、同法に定められた義務を遵守しなければなりません。従業員の病歴や健康診断の結果などの健康に関する情報(要配慮個人情報)も個人情報保護法の保護対象となります。

 個人情報保護法は、個人情報取扱事業者である企業が、健康情報の利用目的を特定し(15条1項)、その範囲内での利用を義務づけています(16条1項)。健康情報を職場の上司に伝え、さらに就業上の措置を具体的に検討するのであれば、この利用目的を労働者に通知するか、または公表しなければなりません(同法18条1項)。

 利用目的の特定と通知・公表をしていれば、組織内の情報伝達は本人の事前同意が必要となる第三者提供(個人情報保護法23条1項)に当たりませんが、そうはいっても、新型コロナウィルスへの感染やその病状は、健康情報であるとともに、プライバシーに属する情報でもあるので、個人情報の保護とは別にプライバシーの保護も考慮しなければなりません。当該従業員から自己の感染情報を上司や同僚に知らせないでほしいと依頼された以上、人事労務担当者としては、上司に対して病気の状態や療養の必要性について報告する前に、あらかじめ当該従業員の同意を得ることが必要となります。

 当該従業員が感染情報を伝えることに難色を示したときは、情報伝達することにより本人に不利益が生じないようにすること、退院後4週間は一般的な衛生対策に加え健康観察が求められるとされているので、就業上の措置が必要となることなどを説明し、理解してもらいましょう。

 そして、当該従業員に対しては、疾病名、治療内容および療養期間などについて、どの程度の情報を上司に伝えてよいのかを具体的に確認し、手数が掛かっても、同意書を自宅に郵送して署名押印をした上で返送してもらうか、少なくとも電子メールで同意する旨の返信をしてもらった方が無難です。

 なお、発熱や風邪症状を認めるものの、新型コロナウイルス感染症との診断に至らなかった場合の職場復帰について、日本渡航医学会および日本産業衛生学会は、発症後に少なくても8日が経過していること、解熱剤を含む症状を緩和させる薬剤を服用していない状態で解熱後および症状(咳・咽頭痛・息切れ・全身倦怠感・下痢など)消失後に少なくとも3日が経過していることのいずれの条件も満たす場合に職場復帰が可能であるとの基準を提案しています。PCR検査で陰性と評価されても年休取得日数が多くなるケースがありますので、留意してください。

 


2 家族の感染情報を職場に伝達できるか

 一方、従業員の家族が新型コロナウィルスに感染したことから濃厚接触者であるとして、従業員が年休を取得した場合、家族が感染した事実を職場に伝えることはできるでしょうか。

 まず家族の感染情報は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」として、同法が例示列挙する「病歴」に当たる(2条3項)ので、企業が取得するには本人の事前同意が必要となります(17条2項)。ただし、従業員から人事労務担当者に対して家族の感染が報告されている以上、家族の同意があったと認められますので、企業の取得自体は問題がありません。

 次に職場に伝えられるかどうかについては、組織内の情報伝達であるとはいえ、家族の感染情報自体が当該従業員の就業上の措置に関わらない以上、目的外利用といえるので、家族本人の事前同意がなければならないといえ解されます(個人情報保護法16条2項)。そして、家族のプライバシーも保護しなければならないので、あらかじめ当該従業員を通じて家族の同意を得ることが必要となります。

 しかし、濃厚接触者として、保健所より感染者と最後に接触があった日から14日間、健康観察を実施することが指示された場合は自宅待機をしていなければならないので、年休を使い切ってしまうこともあるでしょう。この場合、従業員の感染情報と同様に、少なくとも上司には報告する必要が出てきます。

 それでは、どのような情報を伝達すればよいのかというと、当該従業員が濃厚接触者であることを伝えれば足り、家族の感染情報まで伝える必要はありません。ただし、濃厚接触者であることもプライバシー保護の観点から取り扱わなければならないので、当該従業員に対する前項で述べた対応をする必要はあります。

 なお、保健所の指示による健康観察をするため、家族が感染した従業員が自宅待機をしている期間中に年休を消化した場合、その後は、就業規則等に有給保障を定めていない限り賃金を支払う必要はなく、また、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないので、休業手当を支払う必要はありません。これに対し、保健所の指示がないとしても、企業が他の従業員への感染予防のため、必要な期間、当該従業員に対して出勤停止を命じることはできますが、この場合は会社都合による出勤停止となりますので、休業手当の支払義務が発生します。

※本稿の医学的情報については、日本産業衛生学会の公式ウェブサイトに掲載されている「新型コロナウイルス情報-企業と個人に求められる対策」および「新型コロナウイルス情報-企業と個人に求められる対策Q&A」を参照しました。これらの情報は随時更新されていますので、今後の研究結果によって内容が変更されることがあります。
https://www.sanei.or.jp/?mode=view&cid=416

 

 

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つまこい法律事務所・弁護士https://mentalhealth-tsumakoilaw.com/
弁護士 佐久間 大輔
労災・過労死事件を中心に、労働事件、一般民事事件を扱う。近年は、メンタルヘルス対策やハラスメント防止対策などの予防にも注力しており、社会保険労務士会の支部や自主研究会で講演の依頼を受けている。日本労働法学会・日本産業ストレス学会所属。著作は、「過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方」(労働開発研究会、2014年)、「長時間労働対策の実務 いま取り組むべき働き方改革へのアプローチ」(共著、労務行政、2017年)など多数。

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