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【専門家の知恵】役員(取締役)さん!大丈夫ですか?

役員(取締役)さん!大丈夫ですか?

<株式会社WBC&アソシエイツ 大曲 義典/PSR会員>

 

 中小企業を相手にしていると、大丈夫かなと思ってしまうようなことがたまにある。役員がその役割を自覚していない場面に遭遇することもそのひとつだ。「代表取締役社長」「専務取締役」「常務取締役」等々、さぞかし肩書は立派なのだが、自らのミッションが全くわかっていない「役員さん」も少なくない。ということで、今回は役員(取締役)の法的立場を深めていこう。

 

◆役員(取締役)とは?

 取締役と聞けば、会社を代表して従業員の先頭に立っていろいろな業務を執行したり、取引先と交渉・契約をする人、と思っている人が多いのではなかろうか。しかしながら、本来に取締役には、会社法上、次のような権限が付与されているのだ。

  ①会社の業務執行についての意思決定をすること(決定機能)
  ②会社の業務執行を監督すること(監督機能)

 ①は、会社の重要な業務執行の意思決定は取締役会の過半数の賛成で行われるということであり、②は、代表取締役や業務執行取締役が日常的に行っている「業務執行の実行」や「業務執行の意思決定」が法令に違反していないか、などを監督する権限のことである。これら以外に、会社には「執行機能」や「監査機能」が必要であるが、一般的に前者は社長、専務、常務といった業務執行権限を併せ持った取締役が担い、後者は監査委員会や監査役が担うこととされている。世間の理解とは、取締役の権能が異なるのがおわかりいただけるだろうか。

 

◆取締役・従業員の会社との契約関係

 取締役と一般従業員では、会社との契約形態が根本的に異なる。従業員との間で結ばれるのは「雇用契約」(民法623条)であるが、これは労働契約法では「労働契約」(労働契約法6条)と呼ばれ、いずれにおいても従業員が会社の指揮命令に従って労働力を提供し、その対価を賃金として受け取る双務契約である。一方、会社と取締役との間に締結されるのは「委任契約」(民法643条及び会社法330条)である。それによると、当事者の一方(委任者)が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方(受任者)がこれを承諾することを内容とする契約である。会社と取締役の関係に置き直せば、「会社が経営の専門家である取締役に会社の経営を委ね、取締役はこれを受任」したことにほかならない。つまり、取締役へ就任するということは、会社の経営に関して、プロとしての重責を担うということなのである。

 また、この委任契約には受任者としての義務が課されている。「善良なる管理者の注意義務」(民法644条)である。取締役は、経営の専門家として、その会社の規模、業種等のもとで通常期待される注意義務をもって職務を遂行しなければならないのである。もし、会社経営に携わる専門家として、注意不足があり、それを原因として損害が発生したときは、会社に対して損害賠償しなければならない。一般の従業員とは異なり、取締役にはその職務や地位に値するだけの高度な注意力が要求されるわけだ。

 

◆取締役と従業員の身分保障や責任の違い

 このような取締役と従業員の契約関係の違いは、身分保障や契約対価への保護あるいは責任の幅などに表われている。例えば、会社側から従業員を解雇する場合には、「合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が法的に要求されている(労働契約法16条)。これに対して、取締役と会社との委任契約の世界では、契約の「相互解除の自由」という原則がある(民法651条)。委任契約は、相互の信頼関係を基本とする契約であるから、信頼が失われたときは、どちらからでも自由に解約することができる。会社法が、「役員はいつでも株主総会の決議によって解任することができる。」(会社法339条)と明記しているのはその表れである。つまり、取締役には、従業員のような手厚い身分保障は一切ないといってよい。

 次に、契約の対価たる「賃金」や「報酬」について見てみよう。従業員には労働基準法で「賃金」の支払いに関して手厚く保護されている。通貨払い、直接払い、全額払い、毎月1回以上払い、一定期日払いの5原則である。また、例えば会社が倒産したような場合には、「賃金」の「先取特権」が認められている。これは、労働契約から生じた従業員の債権は、会社の他の一般債権者に優先して支払ってもらえる権利である。一方、取締役には、従業員に認められているような保護や権利はなく、委任契約に基づいて会社から「報酬」の支払いを一般債権者として受けるだけである。

 そのほか、取締役は、会社(株主)に対する責任はもとより、従業員に対する責任、第三者に対する責任、社会に対する責任など、多様で重い責任を負っている。一方の従業員には、労働契約の債務不履行あるいは不法行為に基づき会社に損害を与えた場合に賠償責任が生ずる可能性がある。しかし、労働者が業務の遂行に当たり会社に損害を与えた場合、故意または重大な過失による場合を除き、労働者の損害賠償責任は問われなかったり制限されるのが裁判所のスタンスである。

 

◆取締役を再認識しよう

 日本では、従業員から取締役に昇進する例が多く、従業員と取締役を兼務する「使用人兼取締役」も多いので、つい取締役を従業員の延長線上で考えてしまいがちである。しかし、これまで述べてきたように、従業員と取締役は全く別の地位にあり、その責任も大きく異なる。すでに取締役の方も、これから取締役になる方も、取締役という会社の機関に習熟しておくことが必要不可欠と思う次第である。

 

 

プロフィール

psr oomagari
社会保険労務士 ファイナンシャル・プランナー(CFP®) 1級DCプランナー 大曲 義典
株式会社WBC&アソシエイツ(併設:大曲義典 社会保険労務士事務所)
1万円札を積み上げたら1万㎞の高さ、重さは10万トン。日本の抱える借金残高1000兆円の実態です。社会保障費の増加が主因です。事の本質を捉え、ゆでガエル状態からの脱却を目指した経営戦略支援を心がけています。

 

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