HOME 専門家の知恵 就業規則・労務問題 【専門家の知恵】副業・兼業の諸問題を考える(下)

【専門家の知恵】副業・兼業の諸問題を考える(下)

副業・兼業の諸問題を考える(下)

<SRC・総合労務センター 佐藤 正欣/PSR会員>

 

 全2回にわたり、副業・兼業に潜む問題点について労務管理の視点から考えているところであるが、前回までの内容を振り返っておこう。前回は、副業のメリットについて触れるとともに、副業を解禁することの問題点として、現行法上の労働時間管理の煩雑さについて述べた。今回も、問題の続きを考えていくこととしたい。

 

◆労災事故における諸問題

 例えば、副業先のB社で不慮の労災事故が発生したとしよう。この事故によって、被災労働者が数か月間の休業を余儀なくされたとする。

 第一に、一般的に副業先の方が勤務時間数も短く、受け取る給与も少ないことが想定される。労災保険の休業補償は、事故直近3か月の平均給与額を基準として給付されることから、少ない給与水準で算出された所得補償が受けられるに過ぎない。本業の方で高い給与を受けていたとしても、副業先の労災事故である以上、加味されない。最低保障額が設けられているとはいえ、1日あたり3,920円(平成29年8月1日~平成30年7月31日まで)である。途端に生活が困難となるリスクを孕んでいる(これは、障害、遺族補償においても同様のことが言える)。

 第二に、外的要因であるケガ等の労災事故だけでなく、脳・心臓疾患、精神疾患の扱いをどのように考えるべきか問題が残る。副業をすれば、勤務時間・拘束時間は長時間なものとなりやすい。比例して心身への負担も増加すると考えられる。もし、突然労働者が倒れてしまった場合、本業・副業どちらの業務に起因した事故であるかの判断が難しい。

 第三は、前回で述べた労働時間管理の問題と絡むが、過重労働を防止することが困難であるという点だ。そもそも、労働者が真正に他社の就労時間数を申告していなければ、自社で正確な勤務時間を算定しても限界がある。それに、申告した時間数よりも多く他社で就労していれば、当然だが疲労は蓄積されていく。業務中に居眠り運転等で第三者を加害した場合、被害者に対する使用者責任は免れないというリスクとも隣り合わせにある。どちらの企業がその責めを負うべきなのだろうか。

 

◆副業解禁前に仕組み作りが先決!

 このように、長時間労働と労災事故は相関関係にあるにも関わらず、副業解禁に踏み切る前に検討しなければならない安全衛生上の問題は置き去りにされたままである。これらの労務リスクは、労働者又は第三者の生命身体に関わるものであり、起きてからでは取り返しのつかない問題である。誤解を恐れずに言うならば、未払い給与という問題に対する解決策は、未払い分を支払うことによって解決できよう。しかし、重篤な障害を負った場合や、失われた命は取り戻すことができない。詰まるところ、このようなケースでも法的には金銭補償により解決することになるが、生命・身体に関わる問題は、根本解決に至らないことが他の労務リスクと決定的に異なる点である。であるがゆえに、国は使用者に対して安全配慮義務(労働契約法5条)を求めているのではないか。

 これまで度重なる改正が行われてきたとはいえ、労働基準法も労働者災害補償保険法も、戦後間もない1947(昭和22)年にできた法律である。時代的に製造業を中心に考えられており、サービス業が中心となっている現在とは馴染まないところがある。また、終身雇用慣行が機能していた当時は、定年まで一つの会社で勤め上げるのが一般的であり、副業を想定したルールとは言い難い。したがって、実態に合ったルールに改正した上で副業を推進していくべきであって、順序が逆である。ルールの整備なくして副業を推進していくことは、先で述べた重要な諸問題が想定される以上、認めるべきではない。

 

◆おわりに

 このように筆者が述べると、時代錯誤で副業容認に否定的だと思われるかもしれない。産業は国境を越えており、イノベーション戦略として、副業容認の方向性は理解できる。しかし、生命・身体に関わる問題点のルールが曖昧・不明確なままでは、一企業が背負う責任は極めて重いものと言わざるを得ない。

 労働時間通算の規定を改めるとともに、副業する者の企業に対する真正な申告義務規定を設ける一方、一定水準の労務管理を果たした企業に対する免責規定を設ける必要があるのではないか。

 また、副業をする者の観点では、労災事故に対する保険給付に関し、行政がマイナンバーを活用し、本業と副業の給与を合算した給付が可能となるよう改めることが考えられる。一企業の責任に押し付けるのではなく、労災保険制度という枠組みにおいて、社会全体で担保することが必要だと考えるからだ。でなければ、被災労働者の迅速かつ公正な保護とは言えない。これらが整備された先に、副業容認という概念が生まれると考える。

 厚生労働省の「柔軟な働き方に関する検討会」で、これら諸問題を踏まえた今後の議論を期待したい。

 

 

プロフィール

psr sato
特定社会保険労務士 佐藤 正欣
株式会社エンブレス 代表取締役  SRC・総合労務センター 副所長(http://www.e-src.com
輝く未来のオンリーワン企業を支援するため「大企業のマネをしない中小企業独自の労務管理」を理念とする。社会保険・労働保険の諸手続きをはじめ、給与計算等の事務手続き面におけるアウトソース業務と並行し、経営・労務相談、就業規則策定等のコンサル業務も多数手掛けている。また不定期に実施するセミナーや社員研修に定評がある。

「社労士の知恵」の記事

 

 

 

 

 

続きを読むにはログインしてください。 ユーザ登録は右上のリンクから行えます。