HOME 専門家の知恵 就業規則・労務問題 【専門家の知恵】「できる」と「わかる」ということ

【専門家の知恵】「できる」と「わかる」ということ

「できる」と「わかる」ということ

<SRC・総合労務センター 佐藤 正欣/PSR会員>

 

 若年層の労働力が不足していることは周知の事実である。だからどの企業も若手の採用に積極的だ。 しかし、若い労働力がなかなか中小企業にまでまわってこないことも事実である。仮に採用することができたとしても、その後のフォローがうまくいかずに辞めてしまうこともある。このような事情から、既に在籍する社員の教育を充実させて底上げを図り、定着率を向上させるということが再び見直されている。しかし、社員教育を進めていく上で、どの企業も当たり前すぎて気にも留めない大切な点があるように感じる。それは、社員が「わかる」ということと、「できる」ということの違いである。そこで本稿では、この両者について考えてみたい。

 

◆わかっていても、できない

「わかる」ということは「理解している」という意味で捉えることが一般的だ。だから、上司と部下のやり取りのなかで、部下が「わかっています」と答えれば、「そうか、理解しているんだな」と考えてしまう。これがギャップとなり、「わかっていると言っていたのに、わかってないじゃないか!」ということに繋がる。では、社員が嘘をついているのだろうか。筆者は違うと思う。実際に「わかっている」と思うのである。では、なぜ社員はできないのか。それは、「わかる」ということと、「できる」ということは違うのであって、両者を区別して考えなければならない点に理由があると思うのである。

 ある仕事を指示する際、時間の使い方という点で上司が部下に対して指導した事例がある。その上司は、スティーブン・R・コヴィーが著書の中で提唱していた緊急度が高い仕事と、そうではない仕事、重要度が高い仕事と、そうではない仕事という4象限を用いて、月・週・日単位に落とし込んで仕事を割り振ってから進めることを部下に対してアドバイスした。これに対して、部下は「わかっています」と返答した。これに安心した上司は仕事を任せたが、数日経過しても、一向に進捗状況があがってくる訳でも、完成された仕事の報告がある訳でもない。痺れを切らした上司が部下に状況確認をすると、時間管理が甘く、重要度・緊急度への割り振りもバラバラであった。ちなみに、この部下へ仕事を任せた上司に対する批判があるかもしれないが、今回の主題ではないことから、ひとまず横に置いて欲しい。

 

◆「できる」と「わかる」ということ

 ここから推察されることは、部下は、緊急度の高低・重要度の高低という観点から仕事を時間管理すべきだということは「わかっている(理解している)」のである。しかし、この仕組みは理解しているが、実際にこれをベースとして目の前にある仕事を捌くことが「できない」のである。いわゆる頭では理解しているけれども行動に移せない(伴わない)状態である。子供が親に「早く宿題をやりなさい!」と言われ、「わかってる!今やろうと思ってたのに…」という、どの家庭でもありがちな光景と実によく似ていると言えないだろうか。したがって、「わかる」と「できる」は区別して考えなければならない。換言すれば、わかっていれば、できるということには必ずしも繋がらないということだ。

 これらは一見すると、あまりに当たり前過ぎて、見失いがちである。しかし、社員の教育において、これらは緻密に考えていく必要があると言えよう。先で示した事例のように、社員が「わかる」と言っても「できる」とは限らない。実際に自らが担う仕事の中身まで「わかっていない」と、言っていることと、やっていることの行動がちぐはぐに陥ってしまうのである。

 

◆おわりに

 よく「できると言ったのにできない」という経営者の方々の悩みを耳にする。このなかには、一応一連の仕事ができている(完成している)が、経営者が考えているレベルにまで達していないため「できない」と表現されるケースが含まれる場合もある。しかし、総じてこれまでに述べてきた通り、「わかる」という言葉を鵜呑みにして判断した結果であることが多い。したがって、「わかる」と社員が述べたとしても、それは「できる」ということに繋がらないということを再認識しておく必要がある。先で示した事例であれば、頭で理解はできていても、実際にその行動が伴うためには、任せた仕事の重要度・緊急度もきちんと理解できているかまで深掘りして確認する必要がある。仮に理解できていなければ、それは「できない」ものとして接していかねばならないということだ。改めて考えると、至極当然だと誰しもが考えると思われるが、日々忙殺される仕事のなかで、忘れ去られてしまう事柄だと推察される。「わかる」ことと「できる」ことを区別した上で、社員と向き合い教育することこそが、「わかる」と「できる」がイコールの社員となる早道だと言えないだろうか。

 

 

プロフィール

psr sato
特定社会保険労務士 佐藤 正欣
株式会社エンブレス 代表取締役  SRC・総合労務センター 副所長(http://www.e-src.com
輝く未来のオンリーワン企業を支援するため「大企業のマネをしない中小企業独自の労務管理」を理念とする。社会保険・労働保険の諸手続きをはじめ、給与計算等の事務手続き面におけるアウトソース業務と並行し、経営・労務相談、就業規則策定等のコンサル業務も多数手掛けている。また不定期に実施するセミナーや社員研修に定評がある。

「社労士の知恵」の記事

 

 

 

 

続きを読むにはログインしてください。 ユーザ登録は右上のリンクから行えます。