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【専門家の知恵】他者視点と成果基準

他者視点と成果基準

<コンサルティングハウス プライオ 大須賀 信敬/PSR会員>

 

◆1分相当の給料上乗せを要求する社員

 時給制で働く社員の顧客対応が長引き、本来は1日に1時間10分取れるはずの休憩時間が、その日は1時間9分しか取れなかった。その日の帰り際、社員は上司に次のように言った。「私はお客様対応をしていて、休憩時間を1時間9分しか取れませんでした。今日は仕方なく休憩時間を削って対応しましたが、休憩時間が減っては困るので明日以降はこのような対応はしません。また、休憩時間が1分足りなかったので、その分を給料に上乗せして払ってください」。 

 この企業は時給制で勤務する社員に対して、休憩時間を給与支払いの対象としていなかった。また、日々の休憩時間は事務処理の便宜上、「1時間10分取ったもの」として機械的に処理をしていた。そのため、この社員の「休憩時間が1分足りなかったので、その分を給料に上乗せして払ってください」という主張は、理解できなくもない。このような主張をしなければ、社員の給料は実際の勤務時間に対して1分相当分だけ少なくなるからである。また、このような勤務が継続されれば「1時間10分」あるはずの休憩時間が形骸化してしまうかもしれない。

 しかし、組織をマネジメントする視点で考えると、この社員の主張に違和感を覚えるリーダーも少なくないのではないか。もちろん、企業には労働法規や雇用契約を遵守する義務があり、守れていない部分を早急に改善すべきことは当然である。しかしながら、企業活動を遂行するうえでは不測の事態、予想外の状況が付き物なことも事実である。

 

◆『自己視点』が強く、『時間数』で仕事を判断

 この社員の主張には2つの特徴がある。1番目の特徴は、「契約どおり休憩したい」「給料を増やしたい」という、自分の立場から物事を判断する『自分の視点』が強く、「業務に支障を来たさないためには仕方ないこともある」という『組織の視点』、「社員の休憩時間にかかわらずお客様はやってくる」という『顧客の視点』が弱いことである。2番目は、自身の仕事を『内容』や『出来栄え』で評価するのではなく、仕事にかけた『時間数』で評価するという点である。

 たとえば、同じ社員の中でも『組織の視点』『顧客の視点』が強ければ、「業務に支障を来たしてはいけない」「お客様をお待たせしてはいけない」などの考えから、「明日以降はこのような対応はしません」「1分相当の給料を払ってください」などの主張までは行わないかもしれない。また、自分の仕事を『内容』や『出来栄え』で評価する視点を持っていれば、「より良い仕事をしたい」という気持ちが強いため、たとえ休憩時間を削ったとしても、対応したお客様に喜んでいただけた事実に満足感さえ覚えるかもしれない。

『組織の視点』『顧客の視点』とは、言い換えれば相手の立場で物事を判断する『他者視点』である。また、自分の仕事を『内容』や『出来栄え』で評価するとは、言い換えれば『成果基準』で評価することである。これに対し、前述の「明日以降はこのような対応はしません」との主張は自分の立場で物事を判断する『自己視点』、「1分相当の給料を払ってください」との主張は仕事を時間数で評価する『時間基準』であることが分かる。

 この『自己視点』『時間基準』と『他者視点』『成果基準』という志向の違いは、サラリーマン層と経営者層の志向の違いの特徴でもある。前述のとおり、サラリーマンはとかく『自己視点』『時間基準』が強くなりがちである。これに対して経営者は、一般的に「仕事を自分の視点や時間だけで判断する」という志向がない。どんなに自分が良いと思ったものを作っても、どんなに長く働いても、顧客に売れなければ1円の収入にもならないからである。

 

◆ロイヤルティと『他者視点』『成果基準』

 古くから企業が組織力向上を図るためには、「組織に対してロイヤルティを持った社員を育成することが大切である」と言われる。ロイヤルティとは忠誠、愛着などの意味を持つ言葉だが、マネジメント用語として使用する場合には「組織に対する忠誠心、帰属意識」などの意味で使われる。従って、「組織に対してロイヤルティを持った社員を育成することが大切である」とは「組織に対して忠誠心、帰属意識を持った社員を育成することが大切である」という意味になる。

「今どき、組織に対する忠誠心などとは古臭い」と思われるかもしれないが、ここで言う忠誠心や帰属意識とは、言い換えれば「組織や経営者の立場で思考し、行動すること」を意味している。つまり、ロイヤルティを持った社員とは、まさしく『他者視点』『成果基準』の志向を持った社員と言える。従って、企業が組織力向上を図るためには、『他者視点』『成果基準』を持った社員を育成することが重要というわけである。

 いかに『他者視点』『成果基準』を持った社員を育成できるかがリーダーの課題となる。リーダーから末端社員まで皆が『他者視点』『成果基準』を持てれば、1分相当の給料よりも遥かに大きなインセンティブを獲得できるに違いない。

 

 

プロフィール

psr ohsuka
マネジメントコンサルタント、中小企業診断士、特定社会保険労務士 大須賀 信敬
コンサルティングハウス プライオ(http://ch-plyo.net)代表
「ヒトにかかわる法律上・法律外の問題解決」をテーマに、さまざまな組織の「人的資源管理コンサルティング」に携わっています。「年金分野」に強く、年金制度運営団体等で数多くの年金研修を担当しています。

 

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